理科教育の危機が叫ばれている中、日本地学教育学会の呼びかけに応じて、地学関 連学会16学会が集まり、学校科目「地学」関連学会連絡協議会が発足した。この連 絡協議会は、初等、中等教育における理科の中の地学分野につき、その構成、目標、 内容および内容の取り扱いに関して、関連学会間の情報と意見の交換、および意見の 調節をはかり、学校教育の改善に資することを目的とする。
既に幾つかの学会から今までの学会としての地学教育にたいする取り組みについて 、報告されてきた。地質学会(会員数5300人程)では1976年に地学教育研究委 員会を設立し、現在はそれを発展させて「地質学の普及教育推進委員会」を発足させ ている。また本年2月には、初等、中等教育における地学(理科)教育振興についての 要望書を中央教育審議会会長に提出した。天文学会(会員数2500人程でそのうち の半数強が研究者で高校の先生が180人程)はアマチュア天文家の会からスタート し、天文教育普及研究会を5、6年前から発足させ学会の時に天文教育フォーラムを 開催している。本年3月の学会ではフォーラムのために2時間のセッションが組まれ 、学会参加者総数500人程の内の80人程が出席した。天文学をテーマとして考え させる教育の重要性や教育目標を何にするかが議論された。また、天文は学校であま り教えないから大学で人気があり、小、中学校であまり教え過ぎると嫌いになるとい う側面も指摘された。また「次代を担う子どもたちすべてに豊かな理科教育、天文教 育を−理科教育の危機を克服するために−」という天文学会声明を準備中であること が報告された。地震学会からは、これまではほとんど研究者を相手にしてきたが、阪 神・淡路大震災以降、今まで一般の人にはほとんど知られていなかった活断層という 用語が注目を浴び、社会を相手にする必要性が生じ、現在、中学生位のレベルをター ゲットとして「地震はなぜ起こる?」というビデオを製作準備中であることが報告さ れた。
SGEPSSとしては、今まで学会独自の教育問題への取り組みは行なわず、教育につい ては、もっぱら各研究所、センターや各大学での啓蒙活動(一般向けの講演会の企画 、小中高校生向けの「学校」の開校)や各会員の啓蒙活動(啓蒙書の執筆等)に頼って きた。一般にSGEPSS関連の事項については初等、中等教育ではあまり扱われていない という認識があるが、まずはその教育の現状を明らかにすることが必要との認識の元 に、小中高校で使われている教科書にどれ位SGEPSS関連の事項が載せられているか調 査した。具体的には、高校の地学、中学校の理科、小学校の1、2年の生活科(昔の 理科)と小学校高学年の理科の教科書について検定に受かったすべての教科書(平成8 年度に使われているもの)の調査を行なった。
以下に、SGEPSS関連の事項について説明した教科書の各節の見出し語と各節の中の 文章中に現れる細目(キーワード)を示す。
高校の地学の教科書は14種類あるが、そのうちの6種類について見出し語と細目 は次の通りである。
(A出版社) 見出し語:地磁気、古地磁気学、オゾン層、夜光雲、中間圏、熱圏、外気圏、電離圏 、オーロラ、太陽風、バンアレン帯 細目:惑星大気、デリンジャー現象、太陽活動周期、太陽フレアー (B出版社) 見出し語:地磁気、3要素、地磁気日変化、永年変化、残留磁気、地磁気逆転、地磁 気異常、地磁気の成因、フレア、太陽風、磁気圏、磁気嵐 細目:ダイナモ作用、太陽活動極大期、極小期、コロナホール、デリンジャー現象、 オーロラ、バンアレン帯、オゾン層、中間圏、熱圏、電離圏、外気圏 (C出版社) 見出し語:オゾン層の破壊 細目:温室効果、成層圏、対流圏、圏界面、オゾンホール、フロンガス (D出版社) 見出し語:地球磁気圏、太陽風、地球嵐 細目:オゾン層、対流圏、中間圏、熱圏、電離圏、オーロラ、アルベド、大気の温室 効果、地磁気の性質と分布、双極子磁場、非双極子磁場、偏角、伏角、全磁力、地磁 気の3要素、プラズマ流、磁気圏、磁気圏界面、放射線帯(バンアレン帯)、フレア、 コロナ、コロナホール、オーロラ、磁気嵐、デリンジャー現象、衝撃波面 (E出版社) 見出し語:地磁気の3要素、成層圏、中間圏、熱圏、外気圏、磁気嵐、バンアレン帯 、太陽風 細目:偏角、伏角、全磁力、水平分力、鉛直分力、地磁気逆転、地磁気異常のしま模 様、対流圏、圏界面、オゾン層、電離層、オーロラ、プラズマ、磁気圏界面、磁力線 (F出版社) 見出し語:地磁気、地磁気3要素、地磁気永年変化、地球ダイナモ、古地磁気学、地 磁気逆転、テープレコーダモデル、オゾン層 細目:バンアレン帯、磁気嵐、オーロラ、地磁気日変化、自然残留磁気、地磁気しま 模様、中間圏、熱圏
以上からわかる様に、高校の教科書は多様だが、ほとんどの教科書でSGEPSSの扱う固 体地球電磁気、超高層大気、電磁圏の各テーマについてかなりの記述がされているこ とが明らかである。全ての教科書ではないが、太陽風と磁気圏の図や大気の鉛直構造 の図等がかなりの教科書に載せられている。これは、SGEPSS会員が高校の一部の教科 書の執筆委員になっているためでもあると思われる。従って、SGEPSS関連の事項につ いて、高校での教育に関しては、問題は教科書の内容の問題ではなく、高校での地学 は選択科目でその履修率が16%しかないという事実である(物理の履修率は40%)。
高校の地学の教科書に比べて、一般的に画一的でSGEPSS関連の記述は少ない。以下 に三つの教科書の例を示す。
(G出版社) 細目:方位磁針、地球の磁界、地球という巨大な磁石の極の逆転(磁石の所で説明) (H出版社) 見出し語:地球の自然環境と人間の活動、わたしたちをとりまく自然 細目:大気中の二酸化炭素濃度の増加、地球の気温の変化、南極大陸(昭和基地)上空 のオゾン量の変化、太陽紫外線、オゾンホール、南半球のオゾン量の変化 (I出版社) 見出し語:オゾン層の破壊、地球の温暖化 細目 :オゾン層、太陽紫外線、フロン、オーロラ、二酸化炭素濃度の変化、温室 効果、メタン、全地球の平均地上気温の変化
全くSGEPSS関連の事項の記述なし
以上からわかる様に、中学校と小学校では一部、環境問題に関連する事項を除いて SGEPSS関連の事項はほとんど教えられていない。将来、週5日制の完全実施や小学校 での英語教育導入によって、教育内容はますます厳選される方向にあり、今後、小学 校と中学校の教科書にSGEPSS関連の事項を載せるのは時代の変化の流れと逆であり、 難しいであろう。
従って、現在あるいは今後も、高校で地学を履修しない8割から9割の生徒はSGEP SS関連の事項はほとんど知らずに社会に出てしまう。一部、環境問題に関連する事項 を除いて、一般の人へのSGEPSS関連の事項の浸透度が小さく一般の人の関心が薄いの は、正に今までの教育を積分した効果であると思われる。
以上が現状であるが、実際に今後学会としてどう取り組んで行くかについては、SG EPSS運営委員の間でも多様な意見がある。例えば、元々SGEPSS関連の事項はあまり扱 われていないので、今後何もしないのも一つの案である。小学校で中途半端に地学関 連事項を教えるより、英語をしっかり教えてもらう方がいい。大学の受験科目として 学力を見るには、地学より物理のほうがいい。インターネットを教育に積極的に活用 すべきである等。今回の報告は単に教育の現状を明らかにすることが目的であったが
、今後、教育の問題にどんな形で取り組むにせよ、教育の明確な目標を持って、長期 的に取り組むことが必要と思われる。 (広報担当運営委員)