大林奨励賞審査報告

会長 國分 征

大林奨励賞候補者作業委員会(委員長:森岡昭運営委員)から の候補者推薦を受け、平成8年7月5日に開催された評議員会において、下記の受 賞者が決定されました。

  1. 藤本正樹 会員 「磁気圏境界面速度勾配層における不安定性の研究」
  2. 山本 衛 会員 「中緯度電離圏E領域沿磁力線イレギュラリティの研究」
  3. 横山由紀子会員 「数十年スケールの地磁気変動の研究」
  1. 藤本会員の研究は、太陽風・磁気圏相互作用の基本的な過程の一つであるケルビ ンーヘルムホルツ(K−H)不安定性を理論的に考察したものである。これまで速 度勾配層のK−H不安定性については多くの研究がなされてきたが、同会員は一連 の研究の中で、磁気圏境界層の厚さがイオン慣性長程度の空間スケールであるこ とを考慮し、新しい角度からの詳細な考察を行った。1)二流体方程式系を用い た不安定の線型解析2)イオンの有限旋回半径効果を取り入れた数値シミュレー ション3)非対称な垂直磁場配位を持つ場合への2)の拡張  このような研究に より、K−H不安定がカスプ領域におけるイオンの散乱に寄与し得ること、有限旋 回半径効果によって広い範囲にわたって効率よく粒子混合が起こること、非対称 の場合は対称の場合に比べ粒子混合が押さえられること、磁気流体的(MHD)近 似には現れないホール効果の重要性を明確にしたこと等、MHD理論の破れがどの ように起こるかという理論的な問題とともに磁気圏境界面の理解をさらに前進さ せた。
  2. 山本会員の研究は、京都大学超高層電波研究センターに設置されてい るMUレーダーを用いた観測により、中緯度電離圏E領域の沿磁力線イレギュラリ ティー(FAI:Field-Aligned Irregularity)の特性を明らかし、観測されたFAI の基本的性質から、FAIは、イオン密度勾配ドリフト不安定に起因することを明 らかにしたものである。これまで電離圏FAIの研究は、強い電流系が存在する磁 気赤道領域やオーロラ帯を対象として行われていたが、中緯度は「静かな」領域 と見なされていたため充分な研究が行われていなかった。同会員の一連の研究に より、中緯度電離圏FAIの時間的・空間的にダイナミックな様相が初めて明らか にされた。FAIの活動度は、夏季に最大、冬季に最小となり、おおよそE領域の日 没後から夜半にかけてピークを迎え、高度100km以上に準周期エコーが現れるこ と、日出後の第2のピークには高度90〜100kmの領域に連続的なエコーが現れるこ とが明らかにされている。また、準周期エコーのほとんどは、西向きの位相伝播 特性を示し、これらは、中層大気中の重力波によるスポラディクE層の空間変動 によるとするモデルで説明できることが示されている。
  3. 横山会員の研究は、 地球核内部の流動性を最も端的に示すと考えられている数10年周期の地磁気永年 変化の特徴を明らかにしたものである。同会員は、球関数展開係数の永年変化と いう形で、変動磁場の空間分布を考慮に入れた周波数解析により、周期60年の変 動が地球内部に起因する最も顕著な変動であることを見出した。これに続く研究 では、この地磁気60年変動と地球回転変動との関連に着目し、日長(length-of-day :LOD)にも60年周期変動が顕著に見られることを明らかにした。さらに、LODと地 軸双極子項との間には約240度の位相差があり、高次項になるに従って位相差が 小さくなる傾向を見出した。これを説明するために、核ーマントルの電磁的相互 作用によって核内部の電磁流体振動とマントルの自転変動が励起されるというモ デルを提唱した。電磁流体振動は、核・マントル境界の薄い層の中で電磁力とコ リオリ力と相互作用によって発生し、その物性及び形状等によって決まる固有振 動として60年周期が生じると考えた。このモデルは、核表面で赤道から極へ、極 から赤道への子午面内での電磁流体振動を取り入れたのが特徴であり、これまで 多くの研究者が取り組み未解決のまま残されていた問題に新たな視点を与えた。  以上、藤本、山本及び横山会員は、本学会若手会員の中で、地球電磁気学、超 高層物理学、及び地球惑星圏科学おいて、独創的な成果を挙げ、さらに将来にお ける研究の発展が充分に期待できると評価され、受賞が決定されました。