このたびは、大林奨励賞を授与していただき、まことにありがとうございます。 今回の受賞は、私が京都大学超高層電波研究センターにおいて、今日まで、加藤進先 生、深尾昌一郎先生、津田敏隆先生をはじめとする先生方・諸先輩から、多くのご指 導ご鞭撻をいただいた結果です。また今回、この新しい賞を制定し、初めての授与を お決めになる際には、関係する多くの方々の努力があったことと存じます。みなさま に、深く感謝いたします。
私が4回生として京大超高層の加藤研に配属され、卒論の仕事を始めたのは、ちょう ど信楽のMUレーダーが建設され始めた1982年でした。卒論のテーマは、そのころ既に 多くの観測が行われていた 京都大学流星レーダーのデータを用いて、大気重力波の統計的性質を調べるものでし た。先生に連れられて信楽町のレーダー・サイトに泊まり込んで観測を行ったとき、 MUレーダーが、ちょうどそこから山ひとつ隔てた場所で土木工事中だったことを覚え ています。その後、大学院へ進学してからは、MUレーダーの完成・観測開始とともに 、中間圏の大気重力波の研究を行う機会を得て、大気重力波の砕波と乱流生成の関連 などについて興味ある結果を得ることができました。これらの研究は、MUレーダー観 測結果にもとづく初めての博士論文にまとめることとなりましたが、それが比較的順 調に行えた理由は、私の大学院生時代とMUレーダーという強力な観測装置の立ち上が り時期が一致したという、幸運に恵まれたからでした。
今回の受賞は、私が1989年夏にMUレーダーを用いて行った、E領域(高度90〜120km)の イレギュラリティ・エコ−の観測を端緒とするものです。当時私は、研究領域を中間 圏から電離圏にシフトしようとしており、良い研究テーマを探している最中でした。 既にMUレーダーを用いた電離圏イレギュラリティの観測は行われていましたが、ほと んどがF領域(高度200km以上)の観測を目的としていました。我々はE領域から強いエ コ−が受信されることを知っていたものの、それは目的の中心にありませんでした。 初めの観測は、ほんのちょっとしたトライであり、正規の観測スケジュールのない夜 に仲間と2人で行ったものでしたが、我々が「準周期エコ−」と呼ぶ非常に興味深い 現象を発見することとなりました。この分野の研究が中緯度であまり行われていなか ったことと、イレギュラリティ・エコ−の観測装置として、MUレーダーの感度が例外 的な程に良いものであったという、2つの幸運がありました。現在、中緯度のE領域イ レギュラリティの研究は国際的にも関心を呼んでおり、我々を追って、ギリシャ・台 湾・フランスなどでHFあるいはVHFレーダーによる観測が行われています。また昨年 夏には、日米の研究者が協力して、宇宙研の観測ロケット2機と地上のレーダーや光 学観測装置を用いた観測キャンペーンSEEKを成功裡に実施することができました。来 年1〜3月には米国でSEEKと同様の観測キャンペーンが計画されておりますので、結果 のまとめを急がなくてはなりません。
以上のように、私の研究者としての経歴は、正直なところ、比較的順調でありました 。もう若手ではない現在から何をするべきか、日常の忙しさに負けて目前の仕事を片 付けるのに精一杯ですが、 真剣に考えなければならない時期なのでしょう。ひょっとして、大きな落とし穴が待 ち構えているのかもしれませんが。今のところはレーダーによる大気観測、それも中 性大気と電離大気の間を行ったり来たりしている私ですが、ちょっとした研究テーマ の変化で、お付き合いする研究者の顔触れが大きく変わることを経験してきました。 将来の研究の変化が内容の「シフト」であるか「拡大」であるか、まだ分かりません が、SGEPSSのみなさま、これからも宜しくお願いします。