このたびは田中舘賞をいただくことができ大変光栄に感じております。選考にあた って、私の論文その他を高く評価してくださった委員の皆様に心から御礼申し上げます。 普段、他の研究者の方々とは離れたところで研究をしているので、自分のやってき たこと、やっていることが、世界中の研究者の共同作業であるところの「科学」から かけ離れてはいないか、という点が常に気に掛かるところです。ですから私にとって 、このような形での客観的な評価は、自分の研究の方向性についての科学の世界から の励ましという意味があります。
私は、神戸大学の修士課程で宇宙線を専攻したあと、教師になることを決心しまし た。研究は是非続けたいと思いましたが、実験が主体の宇宙線の分野ではとうてい無 理ですから、名古屋大学の村山喬先生のもとに一年間置いていただいて、磁気圏物理 のデータ解析の勉強をさせていただきました。教職試験のための勉強と、データ解析 の勉強を半々にしながらアルバイトをして暮らしたこの一年は、私にとって実にいい 思い出になっています。村山先生には、研究の指導をしていただいたり、お宅で奥様 の手料理をいただいたり、ひとかたならぬお世話になりました。大阪で教職に就きし ばらくして、村山先生から当時京都産業大学におられた上出洋介先生に紹介していた だきました。その後は上出先生の指導でDMSP衛星のオーロラ写真の解析をやり、先生 の叱咤激励のお陰でちょうど10年かかって論文博士の学位をとることができました。
オーロラ写真の解析がまとまりかけていた頃、ISEEのデータ解析の論文が誌上をに ぎわせていました。私も、オーロラの源である磁気圏尾のデータを扱いたくてしかた ありませんでした。そのうち京大のデータセンターにISEEのデータテープがあるのを 知り、それを使わせてもらって磁場の統計処理をやってみました。当時、イベント解 析は盛んに行われていましたが,統計的な研究はまだ本格化していなかったように思 います。ある程度結果が出たところで、上出先生にC.T.Russell博士と交渉していた だいて、論文にする許可を得ました。幸い、Russell博士にも私たちの仕事に興味を もってもらえて、ISEEの磁場データの編集をやっていただくことができました。しか し、1978年から1987年までの10年間のデータが揃うにはおよそ5年かかりました。そ の間 disruption model が提唱され、Kaufmann [1987] の論文がしばしば引用されま した。私は、ローブ磁場のデータを丹念に見ていたので、彼の描いている図を一目見 て、少なくとも mid-tail のローブ磁場に関する限り観測と一致しないということに 気づきました。その着想を二遍の論文にまとめて発表しましたが、disruption model のアンチテーゼへの風当たりは強く、レフェリーとのやりとりの中にはかなり過激な 言葉の応酬がありました。上出先生の巧みなリードがなければ、これらの論文も日の 目を見なかったかも知れません。一方、ISEEの磁場データの方も1995年には揃い、構 想から言うとほとんど10年越しの解析結果もようやく世に出ることになりました。
高等学校でフルタイムの教師をしながらの研究ということで、よく時間的な制約に ついて尋ねられます。時間のやりくりは確かに大変ですが、大学や研究所におられる 方と比べてどうでしょう。私の研究は、いわば多くの人の努力の結晶である果実(観 測データや研究会・講演会)をもらって食べているようなものですから、果実を育て る部分に関与していない分、時間があるともいえます。一方、私と同じような境遇で 、生徒に直接関わる仕事が忙しくてとても研究まではという方もおられることでしょ う。私も、もちろん、家庭や仕事のことを100%できてはいないと思います。ただ、 何かができなかったとしても、それを研究のせいにはしないということを、いつのほ どにかモットーにしてやってきました。あたりまえのことですが、やっぱり自分に言 い聞かせておかないとついぼろがでるかもしれません。
それにしても、私の研究は多くの人に便宜をはかってもらってなりたっています。 この分野の社会、つまりは当学会のオープンな気風に負っていると言ってよいでしょ う。とくに、京都大学地磁気世界資料解析センター、STE研の方々にはこの機会にお 礼を申し上げたいと思います。また、私はこれまで現任校を含め三つの府立高校に勤 務しましたが、いずれの学校でも教員仲間から研究に関しての激励を受けました。こ れもまた教員集団の、私のような変わり種をも含みうるという、容量の大きさを示す ものと、高く評価するとともに感謝しています。最近は、皆さんから受けた好意の幾 分なりともを生徒に還元できることを願って、生徒が私を通して自然科学研究の前線 をかいま見ることができるようにということを心がけています。機会をとらえて話を したり、あるいは書き物を見せたり、学会、研究会等に参加したときはその感想を述 べたり、あまり謙虚にならずにどんどん話題に乗せます。専門家に成る成らないは別 にしても、宇宙物理に関心をもったり、自然を研究するということについて思いを馳 せるということが生徒に起こるようなら、これはもう教師冥利に尽きるといえましょう。