田中館賞を受賞して
宇宙科学研究所 星野 真弘


 田中館賞を頂きましてどうも有り難うございます。多くの諸先生のご指導や研究者 仲間との貴重な議論などに恵まれ、 これまで研究できたことに深く感謝しております。ここ数年、衛星観測のデータ解析 も自分自身でやってみる機会に恵まれ、 またスーパコンピュータの進歩により数値シミュレーションも本格的なものが徐々に 出来るようになり、データ解析と理論・ シミュレーションの考察を併せた研究が、うまく融合するようになってきたと実感し ています。私自身の中でも磁気圏物理の 現象が「見える」ようになってきて、その面白さを楽しんでいます。

 例えば、磁気リコネクションの問題では、GEOTAIL衛星観測と数値シミュレーショ ンを用いることによって、巨視的構造と そのミクロな過程を、「まるごと」理解できるようになってきており、これが最近の 成果だと思っています。特に、イオンの 速度分布関数が、GEOTAIL観測においても熱的Maxwell分布からかなり外れているだけ でなく、複雑なジャイロ運動を現した 速度分布関数が、磁気リコネクションに伴って巨視的スケールでも形成されている事 が分かってきました。これは従来の電磁 流体的な磁気リコネクション描像に対して、運動学的な描像で巨視的磁気リコネクシ ョンの構造を理解することが可能になって きたと言ってよいかと思います。

 しかし、現在の衛星観測で「手に取るように」速度分布関数が議論出来るのは主に イオンの振る舞いに限られ、電子は未だ 時間分解能が足らず残念ながら大体熱的分布に近いものしか見えません。ところが、 この未だ見えていない電子の振る舞いが、 少なくとも磁気リコネクションの磁場拡散の物理を理解するためには非常に重要です 。それは最終的に「磁場凍結」を破るのは 電子だからです。観測だけでなく数値シミュレーションにおいても、かなり工夫をし ないと電子のダイナミックスを理解するの は難しく、特に3次元粒子シミュレーションで、イオンのスケールだけでなく同時に 電子のスケールも精度よく扱う本格的な計算は、 まだ出来ていません。イオンのダイナミックスの理解を下に、いかにして電子の本質 的な振る舞いを捕らえるか、観測と理論・ シミュレーションの両側面からの取り組みが今後とも続くでしょう。将来衛星観測で 電子ダイナミックスを観るのは可能になりつつ あり、磁気圏物理現象の理解はどんどん深まり、実証的科学としての面白さが更に活 発に展開されるものと信じています。

 さてここで取り上げた例のように、私自身の研究テーマのなかでも新しい展望が見 えてきた反面、磁気圏物理学に対する「悩み」 も抱いています。昨今物理学全体が伸び悩んでいるといわれますが、磁気圏物理学も かなり難しい時期に来ているのではと思ったり することがあります。線形理論や準線形理論などの枠組みでは表現できない複雑な系 での振る舞いが磁気圏物理での現象の本質で あったり、また現象を細分化して更にミクロな現象を追求してみても、現象自体は簡 略化されず、系の複雑性は一向に変わらないように 思われるからです。最近はこのような複雑な系の中から、一定の法則を見出す「複雑 性科学」の研究も発展しておりますが、これまでの 範囲では未だ物理として本質が何であったのか明確ではないと思います。一体磁気圏 物理とは何であるか分からない事があります。

磁気圏物理の将来の展望に関して、次のような考えを持っています。このまま単に 磁気圏物理だけの問題を掘り下げていくだけでなく、 広く宇宙プラズマでの諸現象を論じ、そのなかでの現象の類似性や相違性を研究する 事により、磁気圏物理現象の理解も深まるのだろう と考えます。例えば、磁気リコネクションの関連で言えば、これは地球磁気圏だけで なく、「ようこう」衛星の太陽コロナ画像で見られ るように、太陽物理と共通な物理で研究出来るところが数多くある事が分かってきま した。もちろん、このようなことは、かなり昔から 認識されていたと思いますが、昨今は「ようこう」や「GEOTAIL」の観測データに基 いて、現象やそこに潜む物理の類似性や相違性が 実証できるようになってきたのが、重要な点です。

 衝撃波加速においても、超新星残骸での衝撃波による超高エネルギー粒子加速の問 題と太陽圏で見られる衝撃波の物理はほとんど同じで、 共通の言葉で議論でき、観測事実もいくつも積み重ねられてきています。またこのよ うな明らかに共通点が有ると思われる物理だけではなく、 もっと広くプラズマ物性を広大な宇宙現象のなかで議論すれば、これまで以上に自然 現象の理解が深まるのは言うまでも有りません。 地球物理の研究者が興味を持てる(広義の)宇宙物理現象が沢山あり、同じ土俵で議 論されるべきであると考えていますが、皆さんは いかが思われますか。磁気圏物理の大問題である磁気圏の成因やプラズマシートのイ オンと電子の熱エネルギー配分の過程などを、 宇宙物理学として捉えた見方をするだけで、楽しくなってくるのではないでしょうか 。このような観点で微力ながらも磁気圏物理の 発展に寄与できたらと思っております。今後とも皆様のご支援・ご指導をお願いいた します。