田中館賞審査報告



第143号  受賞者名 星野 真弘 会員
論文名 磁気リコレクションにおけるプラズマ加速・加熱過程の研究

 星野真弘会員は、磁気圏物理学や天体プラズマ物理学における中心課題の一つであ る粒子加速・加熱過程の研究に一貫して取り組んできた。 その取り組み方は、単に素過程の理論研究というよりも、深い物理的洞察力をもって 観測データを解析して新しい現象を発見し、それを理論的 に解明しようという実証的なものである。具体的には、磁気リコネクションや磁気圏 ダイナミクス、磁気圏および天体プラズマ中での衝撃波、 非線型アルフベン波および電磁流体乱流、パルサー磁気圏などの研究において顕著な 業績をあげている。

 磁気リコネクション過程はプラズマシートでの高温プラズマの生成・加速・加熱・ 混合過程で重要な役割を果たしており、磁気圏ダイナミク スと深く関わっている。サブストームやプラズモイドの発生・伝播などを理解する上 でも、リコネクションは非常に重要な物理過程である。 星野会員は、数値シミュレーションや衛星データ解析をもとに、ミクロとマクロな物 理過程の両側面から精力的な研究を行い、磁気リコネク ションに関わる磁気圏ダイナミックスの研究に多大な貢献をしてきた。特に重要な成 果は GEOTAIL 衛星の観測結果に基づいた磁気リコネク ション過程のイオン・ダイナミクスに関するもので、巨視的構造のみならず微視的物 理過程を理解する上で重要な速度分布関数の観測に成功し、 磁気圏尾部でのプラズモイドの発生・伝搬にともなう多種多様な非熱的速度分布関数 を導いた。その性質は磁気リコネクションのミクロな過程 と密接に結びついており、従来の電磁流体的なマクロな観点の研究では理解されてい なかった。星野会員は粒子シミュレーションを用いた研究 を行い運動学的観点のプラ ズモイドの新しい描像を確立し、観測された様々なイオンの非熱的速度分布関数が磁 気リコネクションで統一的に説明できることを示した。最 新の観測結果を最大限に利用し、理論研究とうまく融合させた研究として高く評価さ れている。

 以上のように、星野会員の独創的な研究は、磁気圏プラズマシートのダイナミクス に関わる研究をはじめ、幅広い研究活動により本学会の発 展にも大きく寄与してきている。このような観点から評議員会は星野会員を今回の田 中館賞受賞者に選出した。



第144号 受賞者名 山崎 俊嗣 会員
論文名 海底堆積物を用いた地球磁場強度推定の研究

 深海や湖沼につもった堆積物の磁化は、地球磁場の変動の殆んど唯一の連続的な記 録である。しかし、火山岩の場合は熱残留磁化の獲得過程 が良く理解されているので、磁化から磁場を推定するのが単純な作業であるのに比べ て、堆積物の場合は磁化の獲得についても問題があり簡単 ではない。これは堆積物の磁化を決定するのが磁場の強度など物理的要因ばかりでな く、続性作用など化学的な過程や bioturbation とか biomineralization といった生物の関与するプロセスにも関係しているからである。 こうした磁化過程の複雑さは、他方では磁化から磁場ば かりではなく、気候や海洋循環など古環境に関する重要な情報を引出し得ることをも 意味している。山崎会員は、堆積物の磁化からいかに信 頼性の高い磁場の情報を引き出すか、また更に古環境の変遷をどのように読みとるか の両面においていくつかの国際的なレベルの業績をあげた。

 信頼性の高い磁場情報を得るための研究としては、粘土質堆積物への熱消磁の適用 、含水率と磁化の関係を調べ、海底下 10 cm 程度という 浅い場所で磁化が固定されることを示したこと、岩石磁気的手法を駆使した磁性鉱物 の同定や粒子サイズの推定、生物起源のマグネタイトが 磁化を担うことの実証などが業績としてあげられる。いずれも困難な実験を慎重に積 み重ねて説得力のある結論を導いたものである。

 山崎会員はこうした一連の研究によって堆積物の磁化の信頼性を確立した上で、磁 化の変動から磁場強度の変化が推定可能であることを示 した。これらは太平洋の東西 5000 km にわたる場所から得たコアについて非履歴性 残留磁化で規格化した磁化の変化が互いに調和的である ことから導いたもので、国際的にも信頼性の高いデータとして評価されている。

 山崎会員の重要な業績の中には環境磁気学に関わるものもあるが、今回の田中館賞 の審査では、この磁場強度の復元に関する研究を受賞対象 とした。