田中館賞を受賞して
地質調査所海洋地質部 山崎 俊嗣


 このたび田中館賞を授与いただき、たいへん有難うございました。 身に余る光栄です。私にとって古地磁気・岩石磁気学との出会いは、 京都大学の学部学生の時に笹嶋先生、鳥居先生に手ほどきを頂いた 時であり、地質調査所に就職し海洋地質部に配属されて以来、ずっ と海底堆積物を材料として研究を続けて来ました。その間、御指導、 御鞭撻下さった学会の先輩、同輩の方々、私の研究を暖かく見守っ て下さった地質調査所の上司、海洋調査航海をともにし、特に海底 堆積物について色々と教えて下さった海洋地質部の同僚に深く感謝 します。

 受賞につながった、古地球磁場強度変化を堆積物を用いて復元 できる可能性に私が気付いたのは、1990年頃のことでした。当時は 外国でもこの方面の研究は細々と続けられていましたが、「堆積物 のような磁化獲得機構の物理の曖昧なものから、古地磁気強度など わかるはずがない」というのが大勢の見方であったと思います。地 質調査所のプロジェクトとして80年代前半に、マンガン団塊形成の 地質学的要因を研究するため中部太平洋から多数の堆積物コアが採 取され、その年代決定のため残留磁気測定をしました。測定した当 時は磁化方位しか気にしていなかったのですが、何かの折にデータ を見直していたときに、遠く離れた場所から採取したコアの磁化強 度変化のパターンが、偶然にしては似すぎていることに気がつきま した。堆積物の磁化強度は、堆積当時の地磁気強度以外に、さまざ まな岩石磁気的要因に支配されるのですが、マンガン団塊が形成さ れるような深海環境は極めて安定で、岩石磁気的に均質な粘土がゆ っくりと堆積しており、系が単純であったのが幸運でした。似たよ うなことには皆同じ頃に気が付くようで、1992年頃からこの手の研 究、つまり、精密に年代のわかった、しかも岩石磁気的に単純な堆 積物を選別して相対的古地磁気強度を復元しようとする研究結果が、 世界で一斉に発表されるようになりました。現在では過去百万年間 程度の古地磁気強度変化の概要が明らかとなり、逆に古地磁気強度 変動が第四紀堆積物の年代決定の新たな道具として注目されるよう にもなっています。今後はより古い時代の地磁気強度変化を連続的 に復元する努力や、より高分解能の記録を得て、気候変動をはじめ 地球の他の変動との相関をさぐる研究が進むものと思います。

 堆積物は古地球磁場の連続記録を保存している可能性のある唯 一の材料として、これからも重要性が失われることはないだろうと 思います。古地磁気強度研究以外にも、地磁気逆転過程の詳細や岩 石磁気手法を駆使した古環境・古気候の研究が、堆積物を用いて現 在さかんに行われていますが、こうした研究が現在のレベルから一 段上に行くためには、結局地味ではありますが、磁化獲得過程など 海底堆積物表層で起きている物理・化学的プロセスの基礎的研究が 重要ではないかと思っています。

 私が初めて国際学会で発表したのは1989年のIAGAであり、河野 先生の「IAGAに行こうキャンペーン」に触発された一人でした。そ のときの印象は、「すごい!」と圧倒される研究発表がいくつもあ ったのはもちろんですが、「自分たちの研究も結構いい線いってい るのではないか。もう少し頑張れば世界の第一線に並べるのでは」 と、たいへん励みにもなりました。以後、積極的に海外へ出かけ、 世界のレベルの中で自分の研究を客観的に評価できるように努力し てきました。地質調査所のような組織に属してきて測定材料には恵 まれていたため、私の研究スタイルはどちらかというと「まんべん なく測ってみて、その中から面白いことを見つけよう」という、い ささか戦略を欠くものでした。これからはもっと、「これを明らか にするためには、こういう堆積物の何を測定しなければならない」 という態度を身につけたいと思います。ところで、省庁再編やエー ジェンシー化など、地質調査所のような国立研究機関をめぐる動き が急になっています。大学と役割分担を図りながらも、地質調査所 でも引き続き古地磁気学のような基礎的研究を続けていけるよう、 また、私たちの実験設備を他機関の方々にも利用していただけるよ う垣根をできる限り低くすることなど、広い意味での当分野の学問 の発展にも微力ながら努力していきたいと思っています。今後とも 宜しく御指導のほどお願いします。