大林奨励賞審査報告

会長 河野 長

(1)橋本 武志 会員

「自然電位観測による雲仙普賢岳直下の熱水対流の発達過程の解明」

 橋本会員の研究は、1990年秋に活動を開始した雲仙普賢岳周辺で、1991年2月からの自然電位の観測によって、顕著な自然電位変化を検出し、その時間的空間的推移の原因が流動電位であるとし、火山活動に伴う地下熱水系の発達過程を明らかにしたものである。自然電位観測では埋設電極の不安定性が常に問題になるが、橋本会員は定期的に参照電極を用いて検定する方法を考案し、誤差要因をとり除いた精密な観測を実施した。

 この研究では、自然電位の変化を一連の噴火活動と関連した3期に分けて考察した。最初のドームの出現前後に対応する1991年3月末から6月の第1期に観測された山頂部での500mVを超える顕著で急激な電位上昇は、深部帯水層を負、マグマ頭位を正とする流動電流源の急速な上昇を原因とした。1991年6月から1993年12月の第2期には、山頂部の正電位の増大速度は鈍化したが、山腹で観測された負電位異常域の広がりから、山頂部の熱水上昇により誘起された地下水の流動が山腹部に及んだと考えている。山頂部の正電位増大速度の鈍化は、すでに熱水対流の先端が地表に達したことや、噴出溶岩がドームを形成しつつも崩落を繰り返していて、火道の内圧は上昇せず熱水対流の規模は徐々にしか拡大できなかったと説明している。溶岩の噴出力が衰えて山体が膨張した時期に該当する1994年以降の第3期には、山頂部の正電位異常域が拡大した事から、熱水対流は火口の出口を塞がれ、地下浅部で横に広がったと推論した。

 このように、橋本会員は長期にわたっての注意深い自然電位の観察に基づき、活動期における活火山直下の熱水対流の発達過程を初めて明らかにした。

 

(2)田口 聡 会員

「北向き惑星間空間磁場の時の地球磁気圏の構造の研究」

 地球の磁気圏のダイナミクスは、惑星間空間磁場(IMF)、特にその南北向き成分 Bzと東西成分 By に大きくコントロールされている。従来から、強い北向きIMF Bzの状態が継続する場合について、昼間側から polar cap についての研究が行われてきたが,田口会員は、プラズマシートと結合している真夜中付近でのIMF Bzコントロールに注目した。磁場観測衛星であるMagsat のデータの解析により、強い北向きIMF Bzが継続する時に、従来知られていなかった真夜中付近に3層構造の沿磁力線電流系 (MTS, midnight sector triple-sheet) が形成されることを示した。その後、人工衛星 Dynamics Explorer2の磁場、電場、降下粒子観測のデータの解析により、プラズマ対流と沿磁力線電流系を形成する北向きIMF Bzの時のプラズマシートのダイナミクスのモデルを提出した。このモデルは、最近の Geotail 衛星の遠尾部での磁場及びプラズマの直接観測から得られる描像とよく一致している。田口会員の仕事は、多くの現象を統一的な基準のもとに調べ、詳細なイベント解析と統計的な解析によって、結果を導いている。さらに、すでにある研究成果をよく勉強して、自分で得た結果と組み合わせることによって、わかりやすいモデルを作り上げている。田口会員は、その後I MP-8 の観測の全期間にわたるデータを調べることによって、磁気圏尾部でのサブストームについて、研究の方向を転回して成果を上げている。最近は、Geotail の観測グループに加わり、解析を進めている。

このように、田口会員は、膨大な観測の中から重要な因果関係を見いだして全体像を把握し、それをもとにしっかりした物理を組み上げるというすぐれた業績をあげた。

 本年度の大林奨励賞は評議員会の審査を経て以上の2件に授与されました。なお、これらの候補者の選出は大林奨励賞選考作業委員会によってなされたものです。同委員会の津田敏隆委員長はじめ、内野、大志万、乙藤、長井各委員の御努力に感謝致します。