田中館賞受賞経過報告
前期の河野長会長が議長を務められた第19-5回評議員会での田中館賞の審査結果を報告する。5名の候補者が審査の対象となった。候補者の業績についてそれぞれの推薦者から説明を受け、さらに質疑応答が行われた。先回の会報に記載のとおり、まず選出する手続きについて議論し、以下のように合意した。「原則として年間2名以内を選出する。但し有資格者が2名以上あり、投票の結果第2位が2名あった場合は例外として3名のこともあり得る。各評議員がそれぞれの評価を述べ、さらに欠席の評議員の手紙も朗読したうえで順位を付した投票を行なった。開票の結果第2位と第3位が同票であったため3名に田中館賞を授与することに決定した。今回の受賞者は羽田亨会員、歌田久司会員、家森俊彦会員の3名である。
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論文名 「宇宙空間プラズマ非線形波動の理論的研究」
宇宙に存在する物質の大部分はプラズマの状態にある。このため、素粒子や重力場の性質とならんでプラズマの物性は宇宙の状態を決める基本的な要素になっている。プラズマはマクロには磁場を伴う流体、電磁流体として記述できる。しかし、希薄な宇宙空間・天体プラズマの場合、個々の荷電粒子間を結び流体としての振舞いを保証するのは、衝突に基づく二体相互作用ではなく、電磁力に基づいた多体的相互作用である。この多体相互作用はプラズマ内のミクロなスケールの現象(例えばランダウ共鳴、サイクロトロン共鳴等)に支配されているため、マクロな現象を扱う際にもミクロな構造が顔を出すことがしばしば見られる。科学衛星による実地観測が可能な地球周辺空間や太陽系のプラズマは、多彩な天体プラズマ現象の本質を理解するための恰好の実験室であり、そこでの知見に基づいて、無衝突プラズマの研究が著しく発展してきた。このような研究の分野において、羽田亨会員はこれまで主として非線形波動現象の理論および数値シミュレーションによる研究に携わり、いくつかの先駆的な業績を上げて来た。その成果は大きく以下の3つに分類できる。 これらのトピックスは、自然科学の分野としては地球物理学と宇宙空間プラズマ物理学に分類されるものであるが、羽田会員はむしろ積極的に他の分野、特に非線形物理学・数理科学・天体物理学・物性物理学などの分野との接点を意識しながら研究を進めてきた点がユニークである。
(1)宇宙空間中の磁気流体波動の研究
人工衛星によるデータの解析から、宇宙空間には様々なプラズマ波動が存在することが知られている。これらは、広大な宇宙空間の中で、古典的散逸の無視できる媒質中を、複雑な境界条件の影響を殆ど受けることなく伝搬するため、非線形波動物理の恰好の研究対象となってきた。宇宙は、波動の励起が可能な熱的非平衡プラズマと、非線形プラズマ波動とが相互に織りなす、非常に複雑かつ興味深い非線形波動現象を与える理想的な自然の実験室である。羽田会員はこれらの波動の中でも特に大振幅で非線形性の顕著な磁気流体波動に対して、その励起・伝搬・非線形発展・および波動による粒子加速過程を、主として理論および数値シミュレーションにより研究してきた。
宇宙の磁気流体波動は、宇宙空間プラズマが持つ自由エネルギーを源泉として励起・増幅されるが、特に地球磁気圏の衝撃波上流域に見られる磁気流体波動に関して、羽田会員はその励起機構をプラズマ不安定性の観点から明確にし、更に「速い非線形発展」のために必要とされる波動の伝搬角の発展に対して、自己屈折作用に基づく一つのモデルを提唱した。更に、プラズマ中の電子を流体として、また陽子を粒子として扱う、ハイブリッド数値シミュレーションを行うことにより、磁気流体波動が非線形発展の結果、人工衛星で確認される様々な性質を示すにいたることを確認している。また、これらの磁気流体波動の基本的な性質(進行波の波形、エネルギー、ヘリシティー等)をハミルトニアン形式による統一的な観点から議論、有限振幅の磁気流体波動がパラメトリック共鳴により他の磁気流体波動を励起し、エネルギー分配によって乱流状態を形成する過程を理論および数値シミュレーションにより考察してきた。さらに、励起源が存在する場合、磁気流体波動が長時間発展の結果、カオスを形成するプロセスも、理論および数値計算により検討した。
磁気流体波の中には、横波であるアルヴェン波(右回りと左回りの2種類)と縦波である音波が存在する。惑星間空間では、これらの波動間の相互作用が非常に強いことを理論的に示し、この観点から、宇宙の磁気流体波動の非線形発展を記述する、新しい方程式系(TDNLS系)を提唱した。また、宇宙空間中の磁気流体波動のデータに対して、逆散乱法変換を適用し、波動のもつ本質的な情報を抽出した。
(2)宇宙プラズマ衝撃波の研究
宇宙空間には、非線形波動の発展の最終段階であるプラズマ衝撃波が存在し、周辺プラズマや宇宙線の加速、加熱等、様々な興味深い非線形現象に本質的な役割を演じている。羽田会員は、これらの衝撃波の構造と安定性、および衝撃波による荷電粒子加速過程を、理論および計算機シミュレーションにより研究してきた。プラズマ中には、磁場圧力とプラズマ圧力との相対的位相の違いにより、「速い衝撃波」、「遅い衝撃波」、および「中間衝撃波」の3種類の衝撃波が理論的に存在する。このうち、速い衝撃波は、地球や他の惑星磁気圏の前面に定常的に存在し、また惑星間空間でも頻繁に観測され、理論および数値シミュレーションによる研究により比較的よくその性質が理解されているが、それ以外の衝撃波についての理解は、かなり立ち後れている。羽田会員は、遅い衝撃波が生成されるための条件について、衝撃波散逸と衝撃波面急峻化の両過程のバランスを理論的に検討し、惑星間プラズマ中で遅い衝撃波がほとんど観測されない理由の説明に成功している。
上記3種のプラズマ衝撃波のうち中間衝撃波は、いわゆる「衝撃波の発展性条件」を満たさないため、存在しないものと長い間信じられてきた。羽田会員は中間衝撃波がプラズマを粒子として扱う数値シミュレーションにおいて中間衝撃波が存在し得ることを、いかに小さくても散逸の存在するプラズマ系では、中間衝撃波が存在し得ることを理論的に示した。これはまた長年にわたって未解決であった衝撃波の発展性条件にまつわる幾つかのパラドックスに解答を与えたものである。
(3)波動からみた宇宙プラズマの性質
宇宙のプラズマは本質的に非平衡・非定常であり、統計物理学的観点から見て、非常に興味の深い対象である。一般に力学系は、保存系(エネルギーが保存される)と散逸系(エネルギーが保存されない)に大別され、またそれぞれが積分可能系(厳密に解ける系)と非積分系(無限自由度カオス)とに分類されるが、羽田会員はこの点をふまえて、閉鎖系および開放系におけるプラズマの物理的性質を考察してきた。
宇宙プラズマのダイナミックな側面を記述する磁気流体系は非積分系であるが、それを形作る個々の波動モードは、それぞれ積分系方程式に従う。右偏波と左偏波のアルヴェン波を共に含むDNLS系は積分可能系であるが、羽田会員は、これに更に音波を加えたTDNLS系の積分可能性は、系に含まれている自由パラメータの値に依存することを示し、磁気流体系の非積分性を理解に大きな鍵を与えた。
また、羽田会員は散逸系の発展性条件に関連して、プラズマに対する極小原理(最小エントロピー生成原理・最小散逸原理)の適用について議論し、初めて宇宙プラズマの中でこの原理の検証を行う題材を見出した。プラズマの物性的性質を、特に非線形波動の理論的検討を直接の題材として議論し、特に宇宙プラズマでは重要な波動間の非線形相互作用に関するマンリー・ローエ条件の拡張や、超大振幅電子プラズマ波の安定性の議論等の研究は、宇宙プラズマを深く理解する上で、基本的な考え方を与え大きな貢献をしている。
さらに、 羽田会員は優秀な成果をあげるとともに、宇宙空間・天体プラズマ物理学、基礎プラズマ理論の分野で活躍を続け、これまで数々の国際会議、ワークショップにおいて招待講演を行うほか、本人自らも「スペースプラズマの非線形波動とカオス」に関する国際会議を組織し、企画、運営にも当たっている。
以上の羽田亨会員の研究業績は田中舘賞に十分値する研究業績であると判断し、同君に田中館賞を授与することに決定した。
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論文名 「日本列島の電気伝導度構造の研究」
日本列島中央部において地磁気短周期変化(サブ・ストームやSSCなど)の鉛直成分が、水平成分と良く似た変化をして振幅も大きいこと、またその符号はこれら短周期変化を作る磁気圏・電離層電流系から期待されるものと正反対であることは、1950年代初めに力武常次等によって発見された。日本列島の太平洋岸で顕著なこの地磁気短周期変化異常は、中央日本異常(Central Japan Anomaly)と呼ばれた。この現象は地球内部の電気伝導度分布が水平成層構造から大きくはずれていることを示唆しており、いわゆる電気伝導度異常(Conductivity Anomaly:略してCA)の、世界における最初の発見例であった。1960年代には世界各地でこの種の異常が見つかり、地球内部の地域的な電気伝導度構造を求める研究は、固体地球電磁気学でもっとも活発な研究分野のひとつに発展した。日本においてはUMP-IQSY期間中に、力武等を中心にCAグループが結成された。中央日本異常については、「離島効果」や「半島効果」という、良導性である海に誘導された電流が陸上に作る磁場の影響が大きいことが、1960年代終わりに確認された。海の影響を考慮しても、なお上部マントル良導層の起伏があって、これが中央日本異常を作っていることも我が国で提唱された。また、東北地方中央部を東西に横断する側線と、中部日本を南北に縦断する側線について、フラックスゲート磁力計による連続観測が行なわれ、太平洋および日本海の上部マントルに良導層を置かないと、陸上のデータも説明できないことがモデル計算によって立証された。
この頃まで日本の研究グループは世界のCA研究の最先端を担っていたが、1970年代後半に行き詰りが見えていた。それは扱う対象が電離層・磁気圏に源泉を持つ磁場による電磁誘導という大規模現象なので、日本付近では海域のデータも無ければ、陸域の構造さえ正しく求められないためである。歌田久司会員はこのような時期に、若手研究者として電気伝導度構造研究の分野に参加して来た。日本のCA研究の直面していた壁を破るには、
(1)海域での電磁場データの取得
(2)観測周波数帯域の10E-4秒から数時間への拡張
(3)磁場3成分のみならず、水平電場2成分も観測する手法の導入
を実現することが必要であった。このように多種類の計器を投入して同時多点観測を行うことはもはや個人では不可能となり、1980年代に入ってCAグループは共同観測を展開するようになった。歌田久司会員はこの共同観測に積極的に参加して、対象論文および関連論文の内容に含まれる次のような重要な貢献をした。
(1)海底磁力計・電位差計の開発および日本周辺海域における観測
海底電磁気観測装置の開発は、米国スクリップス海洋研究所においてすでに1970年代の中頃には完了していた。1981年夏に、三陸沖日本海溝周辺で日米共同による海底観測を行ない、その時に東大海洋研究所と地震研究所が共同で開発した2台のフラックスゲート式の3成分海底磁力計が用いられた。その後、装置の小型軽量化、信頼性の高いメモリーへのデータの書き込み、装置の回収方法のタイマー方式から超音波呼びだし方式への変更、などの改良を加えつつ、本州南方のフィリピン海や日本海などにおいて観測を実施した。また、地磁気だけではなく電位差変化の観測の重要性に着目して、海底電位差計の開発にも磁力計に数年遅れて着手した。歌田久司会員はこれら一連の開発研究および観測航海において実働部隊として中心的役割を果たした。
(2)地下電気伝導度構造の研究にMT法の導入とELF・VLF−MT計による高周波数側のデータの取得
冒頭でも述べたように、日本におけるCA研究では伝統的に地磁気3成分変化観測による方法がとられていた。具体的には、磁気圏・電離層電流による外部磁場変動の地球内部への電磁誘導の特性を表わす鉛直成分と水平成分の変化の比、あるいはそれらの周波数特性を記述する地磁気変換関数と呼ばれる応答関数の分布をもとにして地下構造が調べられた。MT法は地磁気変化と地電位差変化の関係から電気伝導度構造を調べる方法で、1950年ころからヨーロッパや北米などで行なわれていたが、いくつかの理由によって日本ではほとんど行なわれることがなかった。理由の一つに、MT法は比較的水平方向に電気伝導度が一様な場所に適用されるべきであって、日本のように非常に構造が不均質な場合には適用できないというものがあった。歌田久司会員は、(4)に示すように地磁気変換関数とMT法の応答関数とは同じ不均質構造からの異なる情報を含んだ電磁気応答であることを明らかにし、これらを同等に評価して構造を決定する解析手法を考え出した。また、MT法の観測を通常の短周期地磁気変化観測の周期帯(数分〜数時間)で行なうだけでなく、独自に装置開発を行なって地磁気脈動の周期帯やELF帯のシューマン共振現象およびVLF帯にまで拡大してデータを取得した。従来の周期帯のみの観測では地表付近の電気伝導度の値を仮定していたが、高周波数のデータを得ることにより正確な値を与えることができるようになった。また、開発したELF・VLF-MT法は、簡便な浅部比抵抗探査法として、特に火山の構造探査に応用された。帯水層や熱水、マグマ等の低比抵抗体の検出にはこの手法が非常に有効で、1983年三宅島噴火および1986年伊豆大島噴火に際して、噴火過程を解明する上で貴重な情報を提供した。現在では、火山体の比抵抗構造探査は火山活動の予測や監視に不可欠な手法と認知されて、多くの活動的火山で実施されている。
(3)共同観測の計画立案、観測点選定、データ流通にいたる観測全般の中心的役割
CAグループによる大規模構造の共同観測は、1981年から1987年ころまでの間に主として地震予知計画によって実施された。それぞれの観測では、全国の大学や官庁の研究機関から装置をもちよって、10ヵ所以上の観測点で同時観測が行なわれた。実施にあたっては、実施前年に計画をまとめ、事前調査を行なって装置の設置場所の交渉などこまごまとした準備が必要である。また、観測終了後はフォーマットを統一してデータをとりまとめ、参加機関に配布するという作業があって始めて観測者が全データをながめ、解析を行なうことができる。歌田久司会員は、計画立案から解析に至るまでの観測研究推進の全般にわたって中心的役割を果たした。
(4)非線形最小自乗法の電磁誘導問題への適用
CA研究の最終段階は、観測データを説明するような地下構造モデルを求めることである。観測データを入力するだけで、自動的に最適モデルを求めるいわゆるインバージョンの解析法は、地震学ではかなりの適用例があったが電気伝導度構造を求めるものとしてはMT法のデータから1次元構造を求めるものは一般的になりつつあったが、2次元構造を求めるものはほとんど試みられることはなかった。歌田久司会員は、電磁誘導問題の有限要素法による解法をもとにして、不均質パラメータによる応答関数の偏微分(Jacobian)マトリックスを求める方法を開発して、非線形最小自乗法による2次元電気伝導度構造の解法を定式化した。これによって、陸上および海底における地磁気変化異常やMT法の多点観測データを説明する、地下電気伝導度構造を客観的に求める手段が確立した。それだけでなく、応答関数の偏微分の空間分布をプロットすることで、地下構造に対するsensitivityの分布を見る方法を考案した。地下に不均質が存在する時に、地磁気変換関数のJacobianの絶対値は不均質構造の境界上で大きくなるのに対して、MT法の応答関数のJacobianは不均質構造の真上で絶対値が大きくなることを示し、前者は構造のコントラストに後者は構造の絶対値に敏感であるという物理を明らかにした。また、日本列島のように周辺を海域で囲まれている場合には、海水の強い電磁誘導効果によって陸域のみの観測ではsensitivityがないことも示した。これらの考察は、地球内部の電磁誘導に関する基礎知識の飛躍的な増大をもたらした。
(5)日本列島の地下電気伝導度モデルの提出
歌田久司会員は中央日本の南北断面および東北日本中央部の東西断面の双方について、それぞれ2次元電気伝導度構造モデルを提出した。このモデルは歌田モデルとして良く知られている。このモデルに三つの新しい事実が盛り込まれた。それは(a)太平洋プレートおよびフィリピン海プレートのもぐりこむスラブ上面に、ごく薄いが電気伝導度の非常に高い層が載っていて上部マントルに達していること、(b)東北日本および中部日本の日本海側の下部地殻は低比抵抗であること、(c)日本海の海底下に従来予想されていたような良導層は存在しないこと、である。(a)は沈み込み帯のマグマ発生に必要不可欠とされる、水の供給源を実証したものとして高く評価されている。 (b)は内陸地震の発生原因として最近注目を集めている下部地殻の水の存在を示す点で非常に先駆的知見である。(c)は日本海拡大以降の現在のマントルウエッジについての貴重な情報を与えるものである。いずれも沈み込み帯についての地球科学の最新の課題に、電気伝導度構造の研究が決定的な情報を与えうることを示した成果であり、日本のCA研究が再び世界の最前線に達したことを示すものと評価されている。
歌田久司会員はこの歌田モデルを構築する過程で(4)のみならず、時系列解析の改良、モンテ・カルロ法による1次元インバージョンなど、独創的な解析手法を開発した。その解析手法は電気伝導度構造研究の共通財産として、多くの研究者に使われている。また歌田モデルを契機に、日本列島の各地域の2次元電気伝導度構造を求める研究が着実に行われてきた。
以上のように歌田久司会員は、草創期の電磁気共同観測に率先して参加して画期的に良好なデータを得るのに貢献し、独創的なモデル解析手法を開発して、1950年代以来のCA研究における最大の課題―「中央日本異常」の謎を解き明かした。また最近では沈み込み帯の活動に関係する地下構造の解明という立場をさらに発展させ、太平洋地域の諸国における地磁気観測や海底ケーブルを利用した電位差変動観測などを行なうことにより、地球全体の活動の解明という問題に取り組んでいる。
以上の歌田久司会員の研究業績は田中舘賞に十分値する研究業績であると判断し、同君に田中館賞を授与することに決定した。
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論文名 「太陽風に対する磁気圏システム応答と磁気圏電流構造の研究」
家森俊彦会員は以下に述べる研究課題に対し、主導的な役割を果たしてきた。
(1)太陽風パラメーターに対する磁気圏システム応答の研究
磁気圏は、太陽風パラメーターを入力とし、地磁気じょう乱指数等を出力とする一つの系をなすとするシステム理論的見方を家森俊彦会員は初めて導入し、その線形応答関数を求めた。その結果、統計的に、AE指数やDst指数のおよそ70−80%は、太陽風磁場(IMF)の南向き成分と速度の積(dawn to dusk電場)を入力とする線形システムで表現できることを明らかにしている。また、各指数の特性が、インパルス応答関数によく反映され、AL指数で代表されるサブストームはIMFの南転から約1時間後に発生すること、AU指数の応答からは、磁気圏対流がより短い時間でIMFに応答していること、Dst場は、約1時間で発達し、その後2−3時間は急速に減衰すること等を示した。この研究以前は、パラメーター間の単純な相関解析が行われていたにすぎず、より高いレベルの情報理論的観点をこの分野へ持ち込む先駆けとなった。この外、家森俊彦会員はPi2型地磁気脈動を用いてサブストーム開始時刻を分単位で決定し、IMFが南を向いてからサブストーム開始までの時刻、SSCによりトリガーされたサブストームの開始時間差およびIMFが北向きの時のサブストーム発生率を求めた。
(2)磁気嵐の研究
中緯度帯の地磁気じょう乱の特性として、Dst指数で表現される南北方向の一様(経度方向に対称)な場の外、同程度の大きさをもつ経度方向に非対称なじょう乱が存在する。
この大きさを表現する尺度として家森俊彦会はASY・SYM指数を考案し、1992年から算出・配布を開始した。現在は約1年の遅れで算出・プロットし、印刷物として配布の外、ホームページから閲覧・取得することができる。この指数を用いて、磁気嵐およびサブストームについて調べた。 その結果、サブストームが磁気嵐を構成しているとする従来の説は事実に反し、サブストームは磁気嵐の原因ではないことを明らかにした。また、主として中緯度地上磁場観測データから、磁気嵐時の沿磁力線電流分布を推定した。この結果は、後述の環電流のシミュレーションおよび人工衛星による磁場観測データの解析から確認された。さらに、このようにして得られた地磁気じょう乱分布の知識を、1910年のハレー彗星接近時の地磁気じょう乱データに適用し、彗星の尾部に入ったために起こる磁気圏膨張とされてきた地磁気水平成分にみられる同年5月18日の現象は、通常の磁気嵐によるものと解釈すべきことを示した。
(3)沿磁力線電流微細構造および低高度人工衛星データを用いた地磁気脈動の研究
MagsatおよびDE-2衛星で測定された磁場データ等を用いて、家森俊彦会員は極域上空における磁場変動の微細構造を詳細に調べた。その結果、電離圏上空で、少なくとも100Km程度以上の規模の磁場じょう乱の大部分は、沿磁力線電流の空間的構造であることを示し、より規模が小さくなるにつれアルベーン波的性質がみられることを示した。このような微細構造の振幅分布を統計的に求め、大規模沿磁力線電流との関係を調べた。この研究は、沿磁力線電流の微細構造と波動の関係について観測的に調べたものとしては最初である。
さらに、家森俊彦会員は低高度衛星(MagsatおよびDE-2)の磁場データに地上で観測されるよりも2桁程度振幅の大きなPc1型波動が存在することを発見した。この種の波動はプラズマポーズ付近で磁気嵐後の静穏時に現れることから、環電流を構成する高エネルギー粒子がプラズマ圏でイオンサイクロトロン不安定を起こして成長したものと考えられる。この波に伴って、数eVの電子の降り込みが観測され、また、電離圏が局所的に加熱されていることを明らかにし、この電子の降り込みが、ピッチ角分布の解析から、大振幅アルベーン波に伴う沿磁力線電場による加速で説明できることをはじめて示した。
(4)精密磁場観測・実時間データ取得システムの開発とそれを用いたPi2型地磁気脈動の自動検出
家森俊彦会員は信楽および峰山観測点にそれぞれ1990年および1993年から磁場測定およびデータ収集・送信装置を設置し、観測を実施するとともに、データ収録・実時間転送システムを開発した。このシステムを用いて学生とともにPi2型地磁気脈動の自動検出によるサブストームの実時間通報システムを開発した。Pi2型地磁気脈動の実時間検出システムの開発および実用化は初めてであり、宇宙天気予報研究にも今後大きく貢献することが期待される。また、信楽および峰山で取得した毎秒値データや上記脈動の観測結果は、地磁気世界資料解析センターのホームページから公開、ないしは注文に応じて研究者に提供されている。
以上が、家森俊彦会員が主導して行ってきた研究課題であり、田中館賞の対象論文の中核をなすものであるが、以下は家森俊彦会員が共同研究として行ってきた研究課題であり、今回の対象論文の内容にも含まれるものである。
(1)電離圏子午面電流渦の発見
家森俊彦会員らはMagsat精密磁場観測衛星のデータを解析することにより、夕方側の磁気赤道付近で上昇し、両半球高緯度側に向かってF層をほぼ磁力線沿いに流れ、E層で閉じる大規模な子午面電流渦を発見した。この電流の強度は、太陽活動度と良い相関があり、F層におけるダイナモ作用を取り入れた3次元電離圏電流の数値計算によりほぼ再現できることを明らかにしている。これは、Magsat精密磁場観測衛星のデータを用いた成果としては最重要なものの一つとして高い評価を得ている。
(2)中緯度電離圏電場不規則構造(MEF)の発見
家森俊彦会員らは低高度衛星(DE-2、Freja)および信楽MUレーダ観測データを用いて、夜中付近の中緯度電離圏に10-100km程度の規模の電場不規則構造を発見し、それらが、移動性電離圏じょう乱(TID)と密接な関係があることを明らかにした。この不規則構造は沿磁力線電流を伴い、南北共役に出現すること、ポインティング束は、片半球から反対半球に向かっていることも明らかにし、MEF(Mid-latitude Electric field Fluctuations)と命名した。また、この不規則構造の成因としてPerkins不安定性が有力であることを、数値実験により示した。
この研究は、MUレーダ観測から存在が明らかにされた沿磁力線不規則構造およびF層の不規則構造とも密接な関係があることが明らかになりつつあり、これらの総合的観測研究の進展に重要な役割を果たした。
(3)内部磁気圏磁場・電流構造の研究
家森俊彦会員らは荷電粒子の軌道を現実的な磁気圏磁場モデルの中で追跡することにより、磁気圏尾部から注入された高エネルギー荷電粒子は磁気圏の側面から大部分流出してしまうこと、磁気圏のdawn to dusk電場を時間変化させることにより、環電流の発達・減衰を計算機上で再現できることを示した。このようにして環電流の発散をシミュレーション計算することにより沿磁力線電流の分布を推定し、その結果流れる電離圏電流を計算し、地上磁場観測データの解析結果と良く一致することを示した。
さらに、家森俊彦会員らはDE-1衛星等の内部磁気圏を飛翔した衛星の磁場観測データを統計的に解析することにより、昼間側磁気赤道面を東向きに集中して流れる電流と、それにつながると考えられる中緯度の沿磁力線電流を発見した。この電流系(磁場分布)は地磁気じょう乱とは関係がなく、太陽活動度および季節依存性を示すこと等から、電離圏中性風が原因となって磁気圏に大規模電流系を形成している可能性が高いことを示した。これまで、磁気圏を流れる電流の成因を磁気圏側に求めるのが常識とされてきたが、上記の発見は、電離圏中性大気の影響が磁気圏電流においても無視できないことを示している。また、環電流には強い昼夜非対称があること等を定量的に示し、内部磁気圏の電流・磁場構造はきわめて複雑であることを明らかにした。
以上述べたように、家森俊彦会員は、大学院学生時代から一貫して、地磁気データを中心とした解析を行い、太陽風に対する磁気圏の応答、磁気嵐とサブストーム、沿磁力線微細構造と地磁気脈動などの優れた研究を行い、赤道夕方側子午面電流系や中緯度電離圏不規則構造の発見、内部磁気圏電流構造の研究に主導的役割を果たしてきた。また最近では、観測にも目を向け、高時間分解能磁場データ実時間取得システムを開発し、それを用いてサブストームや地震に伴う地磁気変化の検出に成果を挙げている。
以上の家森俊彦会員の研究業績は田中舘賞に十分値する研究業績であると判断し、同君に田中館賞を授与することに決定した。