家森 俊彦 会員

歌田 久司 会員

羽田 亨 会員

 

田中館賞を受賞して

               京都大学大学院理学研究科   家森 俊彦

                            

京都大学で地磁気に関係する仕事をさせていただいた結果、この由緒ある賞をいただけることになり大変幸運であったと思うとともに、推薦し、評価していただいた先生方には深く感謝いたします。また、前田坦、杉浦正久両先生をはじめ、地磁気センターの関係者・院生・卒業生の人たちにもこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

地磁気は当学会の柱の一つである地球電磁気学の主題であり、19世紀半ば以降1970年前後までは、今で言う「科学の最先端」として詳しく研究され、もはや調べ尽くされた感さえあります。それゆえ今なお100ヶ所以上の地磁気観測所が世界各地に存在し、場所によっては非常に困難な政治経済的状況の下でも観測が続けられているというのは不思議な気さえします。地磁気は私たちの生活にどのように役立つのですか、研究して何になるのですかという質問をよく受けます。もちろんそれなりの返答を用意するのですが、私を含め地磁気を研究する者にとって、社会的有用性や学問的位置づけとは全く別の次元でなにか惹きつけるものがあるようです。

私がこれまで行ってきた研究といえば、地磁気に関するデータの解析がほとんどで、他には信楽と峰山で磁場の素人観測を細々と行っている程度です。実験や観測はそれ自身が結構おもしろいのに対し、計算機と磁気テープを相手にするデータ解析なぞ何がおもしろくてやっているのだろうと思うことが時々あります。しかし、下手な鉄砲も数撃ちゃ何とかで、予想もしない結果に出くわすことが数年に一度程度あり、そのときの興奮とそれを確かめ解析を進める数日間の楽しさはまさに研究者として「冥加に余る」です。今でも思い出すのは磁場観測衛星Magsatのデータに振幅が10nT以上という巨大Pc1波動を見つけたときや、サブストームが発生するとDst場が予想とは反対に減衰するという統計結果が出てきたときのことです。また、兵庫県南部地震のあと、軒先まで積もった雪をかき分けて京都大学防災研究所峰山観測室の中に入り持ち帰ったデータの中に、神戸での地震発生と同時に100km離れた峰山で微小な磁場変動が始まっているのを見つけたときもおおいに興奮しました。方法にせよ目的にせよ、一点工夫をしてデータを解析すれば、必ず何か新しいものが出てくるという感想を持ちました。

サブストームが発生するとDst場が減衰するという結果を発表すると大多数の人、特に若い人達から、そんなアホなという反応あるいは反発を受けましたが、私にとって意外でかつありがたかったのは複数の高名な年配の研究者から、そうかもしれないということを言っていただいたことです。最近は人工衛星を中心に観測が充実し、アイデアの当否を直接確かめることのできる機会が増えてきたとはいえ、我々の分野は「群盲象を評す」場合が多く、もっともらしい憶説が一人歩きする危険に十分注意を払う必要を感じました。

一見調べ尽くされた感のある地磁気の世界にも、まだまだ予想外の現象が潜んでいる可能性があります。もちろん、今後は人工衛星や地上レーダー等で得られる地磁気以外の観測データと組み合わせて、確かな物理学的解釈を与えることが本筋であることは言うまでもありません。計算機とネットワークの発達により、インターネットを用いた共同研究というスタイルがここ数年で定着しましたが、「数値シミュレーションとデータ解析の融合」も研究手法として早晩当たり前のことになると予想します。弾があと何発残っているか多少気にはなりますが、このあたりを念頭に置いて、これまで同様下手な鉄砲をあちらこちらに向け撃ち続けたいと思いますので、今後ともご鞭撻の程よろしくお願いいたします。

 

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田中館賞を受賞して

                    東京大学地震研究所 歌田 久司

                           

この度は栄誉ある田中館賞をいただき、加えて喜びの気持ちをお伝えする機会を与えていただき、誠にありがとうございます。まず最初に、会員各位、特に私が学生としてこの分野に飛び込んで以来育てていただいてきたCA研究グループの皆様にお礼を申し上げます.また同時に、この場は、総会において会長によりご紹介いただいた受賞理由が褒めすぎになっていた点を、良心がとがめない程度に修正する機会でもあるとの理解のもとでこの一文を書かせていただきます。

受賞対象となった「日本列島の電気伝導度構造の研究」に私がとりくみ始めたのは、1980年であったと記憶します.その頃までは、伊豆大島などの火山の地下構造を調べる研究をしており、その効率化のためにマグネトテルリク(MT)法を導入しようと試みていました.そのような経緯もあって日本列島の構造研究にMT法も用いたわけです.MT法は、自然電磁場変動の地球内部への電磁誘導を利用して地磁気変化と地電位差変化の観測から電気伝導度構造を求める方法で、1950年前後にはその概念ができあがっていました。しかしいくつかの理由により、日本ではそれまであまり行なわれていない方法でした。実は「地電位差変化には地磁気とは独立な情報が含まれる」という重要な物理的意味があったのですが、勉強不足のため明確な形で示すことはできませんでした。

同じ時期に、日本でも海底電磁気観測を行うべく、海底磁力計の開発プロジェクトが始まりました。日本列島の地下構造の研究は、海洋プレートの沈み込みやそれに伴う地震や火山などの活動を解き明かすのを最終目的にしています。ですから、海岸線で切り抜いた陸地の構造だけではなく、周辺のかなり広い範囲=海域の地下構造も必要です。ところが、海水は電気伝導度が高く、大きな電磁誘導効果があるため、陸上の観測は海底下の構造に非常にinsensitiveであることがすでにわかっていました。それを解決するための海底観測装置の開発であったわけです。始めたころは諸先輩について行くだけだったのですが、次第に自分なりの工夫を加えるようになり、最近やっと「使える」装置ができあがったように思います。

1981〜1983年の3年間には、日本列島の地下構造を調べるための海陸の共同観測が行なわれました。データを解析して、地球内部の応答関数の空間分布や周波数特性を説明するような地下構造モデルを決定します。様々な観測の合間にその作業を進めていた頃、ある先生のコメントをきっかけに、当時地震学で行なわれ始めた非線形最小自乗法を電磁誘導の問題に適用することを試みました。当時はインバージョンと称しましたが、今見ると構造の形をa prioriに与える必要のある、インバージョンとフォワードモデリングの中間と呼ぶべきものです。得られた東北日本と中部日本の電気伝導度断面構造は、他の地球物理的な情報を加味して与えた構造の形状は複雑ですが、実は至って単純であることがわかります。沈み込む海洋プレートのスラブ上面と列島中央部の下部地殻の部分が、高電気伝導度であるというものです。前者はスラブがマントル深部に水を供給する姿を、後者は一度運ばれた水が放出され地殻深部にたまっているものと解釈しました。日本列島の地震や火山の活動にはこのような水が重要な役割を果していると考えられます。この構造モデルは非常におおざっぱなもので、個々の地震断層や火山に直接関係する微細な構造についてや、日本列島全体にこのような構造がなりたっているのかについては答えていません。現在のCA研究グループの活動はこれらの問題を解明するという方向で行なわれています。最近の私の個人的な興味は、もっと広い範囲・もっと深部の電気伝導度構造を明らかにしようという方向にも向いています。

今回の田中館賞受賞を励みに、電磁気学の手法による地球内部の現象の解明を一層押し進めて行きたいと思います。

 

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田中館賞を受賞して

      九州大学総合理工学研究科 羽田 亨

                           

今回、栄誉ある田中舘賞を受賞することになりました。有り難うございました。これまで御指導いただいた方々、推薦して下さった方々、その他関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。現在までどちらかと言えば、いわゆる伝統的な地球物理学的観点から捉えた磁気圏現象とは系統の異なる研究テーマや手法を、意識して扱ってきました。ですから、研究成果も余り人の注目を集めたり理解されたりすることが多くない様に感じていたのですが、今回、これまでの研究に対して一つの客観的な評価をして頂いたということを、大変光栄に思っています。

私は大学では当初は物理学科に在籍していたのですが、壮大な自然を研究対象とする地球物理にあこがれて途中で転科し、その後また留学先では物理課程に進学する等、何回も物理と地球物理の間を行ったり来たりしてきました。つい数年前までは、九州大学の今は既に解体されてなくなってしまった教養部で物理教室に在籍し、主に物性関係の先生方とお付き合いをさせていただきましたし、現在は総合理工学研究科というところで、大気や海洋を専門とされる先生方と一緒に、幸運にも研究に中心を据えた生活を送っています。研究対象はあくまでも宇宙プラズマ現象ということではっきりしていますから、何学科に在籍して方法論が何であろうと、結局は同じことだと思われるかも知れませんが、実際のところは研究の傾向に随分と違いがでてくるように思います。それは、やはりどんな研究でも、研究者一人の個人技だけで完成するものではなく、日常の同僚や学生達との雑談、学部や大学院での講義、セミナーでの議論など、置かれた環境に依存する様々な直接的、間接的要因に大きく影響を及ぼされながら出来上がっていくものだからです。

それは言い換えれば、われわれ地球惑星関連の研究者と、物理・天文・非線形など他分野の研究者達との生産的な交流の余地が、まだ多く残されている、ということにつながります。宇宙プラズマは、非線形・非平衡な物理現象を研究する題材として、極めて理想的な対象です。これまで、カオス、ソリトン、自己組織化、MHD乱流、無衝突衝撃波など多くの革新的な概念が、プラズマを主な題材として生まれ、育てられてきたことを考えても、それは明らかと思います。今回受賞の対象となった、宇宙空間中の非線形プラズマ波動の研究にしても、非常に高レイノルズ数の宇宙プラズマ中で、複雑な境界条件の影響を受けることなく波動が伝搬できるという、理想的な「実験室」が広大な宇宙空間に与えられているという事実が、その原点にあります。そして、最近の衛星観測技術の進歩、また計算機能力の発展と計算機環境の整備が、そこに深く関わっていることも見逃すことは出来ません。このような状況のもとで、宇宙プラズマ波動の非線形発展過程は、世界中の多くの研究者達に尽きることのない知的刺激を与え続けてきました。これは、複数の研究分野の相互作用が飛躍的な学問の発展を促した好例と思います。現在私が特に興味を持っているのは、磁気再結合過程をともなう磁気流体乱流過程ですが、これに関しても最近流行の複雑系の科学との接点が見え始めてきています。これからも研究会やセミナーなど、色々な機会をできるだけ有効に利用して、他分野の研究者達と、お互いにとって有意義な交流を深めていきたいと考えています。

さて先にも書きましたが、私は教養部に8年間程在籍していましたので、何かを教えるということに対して、ちょっとしたこだわりを持っています。ここで教える、というのは院生の指導や講義に限らず、学会での講演や、論文を発表して世に問うことなど、広義の情報の伝達という意味を含みます。それは、当たり前のことかも知れませんが、人に何かを教えることが出来るためには、自分がそれをきちんと理解していなければならない、逆に言えば、人から理解されないのであれば、まず自分がそれを本当に理解しているのかどうか、疑ってみることが必要だ、ということです。宇宙プラズマの理論を専門としていると、どうしても複雑な式や計算機に頼りがちで、これらは自動的に結果を出してくれる便利な道具ではあるのですが、やはり最も大切なのは自分自身が納得の行くまで結果を理解していることだと思います。そのうえであれば、どんなに最先端の研究でも時間さえかければ、例えば高校生にでもその内容を納得して貰えるはずだと思います(高校生には迷惑かも知れませんが)。本質的な内容をわかりやすく伝達するための努力は、研究自身と同じくらい重要なことだと考えています。

ただしその際、やはりある程度共通の言語というかバックグラウンドを共有していた方が話は能率よく伝わりますし、議論も発展します。昨今の大学改組で、地球物理系学科は物理系の学科と分離する傾向にあるようですが、これは長期的に見ると我々の分野の弾力性のある発展を妨げる要因となるような気がしてなりません。例えばカリキュラム編成の上で、統計物理とか量子力学といった科目は地球物理専攻の学生に対しては、ごく入門的な部分だけの履修に制限されつつあります。確かに地球物理の研究に、直接的な形で量子力学が必要となることは稀でしょうが、その背景となった考え方とか議論の組み立ての方法などは、我々にとっても参考になる非常に有意義なものと思います。この原稿を読んで下さっている大学院生の皆さんには、自分の研究に直接関わる科目だけでなく、なるべく幅広く多くの講義やセミナーに出席して、将来の我々の研究分野の飛躍的発展のために、今のうちに視野を広げておいて欲しいと思います。