オーロラ

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オーロラの大きなうねり(専門用語で西向大波構造westward traveling surgeという)が、空一杯に広がり、静かに北の空に消えていく。20秒毎に北東向きに撮った6枚。(撮影: 上出洋介)

オーロラはなぜ光る
 ひとことで言えば、太陽から飛んで来る電気を帯びた粒子が地球大気と衝突し、そのエネルギーが光となったのがオーロラである。光る原理は、家庭の蛍光灯や街のネオンサインと同じ真空放電。オーロラの色は、地球の上層大気に飛び込んでくる粒子のエネルギーや、大気中のどんな種類の原子や分子と衝突するかによって決まる。
 オーロラの発光原理は、カラーテレビにもたとえることもできる。テレビの裏側にある電子銃から電子が放出され、ブラウン管の中で加速され、前面の蛍光面に衝突して発光するのがテレビの仕組である。オーロラの場合、電子を放出するのは太陽外延大気コロナで、画面に相当するのが地球の上層大気ということができる。自然のテレビ「オーロラ」番組の制作や画像調整は、地球磁気圏内のプラズマ分布や電磁場の変動が担当しているというこになるだろう。言い換えれば、オーロラテレビ番組の進行(すなわち、オーロラの色、形、動き)は、私たちに太陽と地球の間の惑星間空間や、地球周辺の宇宙空間でなにが起きているのかを探るヒントを与えてくれていることになる。 


極地方で見られるオーロラ
 極に近づくほど、オーロラがよく見られると思っている人は多いのではないだろうか。さらに、極地方は寒いから、オーロラの発生は気温が低いことと関係があるのではないか、と想像する人も多い。ところが、実際は極点まで行くとオーロラの発生は
むしろ少なくなる。図1に示すように、オーロラがもっともよく現れる場所は、極を取り巻いて、シベリアの北極海側を西に、スカンジナビア半島の北、アイスランド、グリーンランドの南を通り、カナダのハドソン湾を横断し、カナダの北部からアラスカのど真ん中を通って一周している一帯である。この領域は、オーロラ帯(オーロラベルト)と呼ばれている。南半球にもこうしたベルトがあり、ちょうど南極大陸をグルリと一回りした格好になっている。つまり、地球が北と南で、極を取り巻く2つの光の冠をかぶった格好になる。
 この場合の極とは、地球の磁場の極のことである。これを「磁北極」と呼び、北極点からアメリカ東海岸寄りに約11.5度傾いた、グリーンランド北西部にある。磁北極は、地球内部に一本の巨大な棒磁石が通っていると仮定したとき、その棒磁石が地球表面と交わる点ということになる。日本では、磁場の北も地理の北も、その差は5度から10度程度なので違いはそれほど感じないが、極地方に行くにつれて、この差は深刻になってくる。たとえばアラスカでは、その差は約30度であり、さらに北極点に近づくと逆方向、つまり180度ずれている地点さえある。磁石がNを指す方向が本当は南、Sを指す方向が北であるという妙なことが起き得るということである。
 オーロラが出現する確率を語るとき、「地磁気緯度」を説明する必要がある。地球の2つの磁極をそれぞれ北極・南極として、地球にぐるりと緯度線を引いていくと、地球の自転する軸をもととする地理上の緯度とはずれが生じる。地球のもつ磁場から決まるこの緯度を「地磁気緯度」という。たとえば、日本最北端の稚内は北緯約46度であるが、地磁気緯度ではわずか38度にすぎない。アメリカの東海岸では、地理上の緯度はそれほど高緯度ではないところでも、地磁気緯度が高いためオーロラをしばしば見物することができる。北緯41度のニューヨークは、地磁気緯度では54度もある。大都市ボストンやニューヨークが、ときどき見事なオーロラに見舞われるのはこのためである。逆に、北海道やシベリア東部では、寒いわりに地磁気緯度が低く、オーロラを見るという点では損をしている。ちょうど、この両者の中間、つまりアメリ西海岸やヨーロッパでは、地理上の緯度と地磁気緯度はさほど変わらない。
 オーロラがもっともよく見える場所は、地磁気緯度で65〜70度の地域である(図1)。ここでは、統計上は1年に200日以上もオーロラが見られることになっている。しかし、このような統計図では、地平線近くにかすかなオーロラ光が見えても、ある
いは心臓が止まりそうなすばらしいオーロラが現れても同じ1日と数えているという「不公平さ」はまぬかれない。もちろん、これらの数字は太陽の活動度によっても大きく変わる。
 図1によれば、日本の北端では年に0.1回、つまり10年に1回、オーロラが見られることになっていて、日本がいかに「オーロラ銀座」から遠いかがわかる。しかし、これはあくまで古い資料によるもので、最近の観測では、太陽の活動が活発なとき、
年に数回北海道でオーロラが見えるチャンスがあることがわかってきた。注意すべき点は、日本のような低緯度で見られるオーロラは、高緯度のオーロラとは振る舞いが違うということである。

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図1  オーロラ出現確率の世界分布図。M = 100という線は、この地点では1年に100晩オーロラが見えることを示している。北海道あたりのM = 0.1という線は統計上10年に1度見えることを示している。

 

オーロラの高さ
 オーロラは、地上100キロメートルから500キロメートルぐらいの高さで光っている。オーロラカーテンの下縁の高さは、富士山の30倍ぐらいフ高度ということになる。オゾン層の高度は20〜30キロ、人工衛星は1000〜数万キロの高度を飛んでいる。
 アメリカやヨーロッパに行き来するとき、飛行機の窓からオーロラを見たことがある人もいるだろう。飛行機から見えるオーロラは、窓の高さと同じ程度に感じる人が多い。まるでカーテンの中に突っ込んでいくような感じを受けることもある。しかしこれは、地球が丸いので遠くに見えるオIーロラが同じ高さに見えることと、カーテンのひだに沿って光が降り込んでくるような錯覚によるもので、行けども行けどもオーロラの中には入り込めない。ジェット機の高度がわずか約10キロ(1万メートル)だから無理もない。
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図2  オーロラ電子によって電離される超高層大気の粒子数。それぞれ、個/cm2 秒、個/cc 秒)で表す。計算はPeter Banksによる。


オーロラの明るさ
 日常生活で「明るい」という場合、光源そのものが発する明るさと、われわれが実際に見て感じる明るさがある。正確にいえば、前者は光源から出る光の量で「光度」といい、後者は人間の目が受ける光の量で「照度」という。
 光度の単位は、鯨の油でつくったろうそくの炎をもとに決められた「燭光」や、白金凝固点での黒体の光度をもとにして決められた「カンデラ」などを使う。オーロラの場合、単位面積、単位時間当たりの光子(proton)の数で測るレーリーを用いる。
1レーリーというのは、1平方センチメートル当たり毎秒100万個の光子が出ていること。弱いぼんやりしたオーロラは、数百レーリー程度、明るいカーテン状オーロラは数十キロレーリーである。活発なオーロラでは、1平方センチメートルから1秒に100億個以上の光子が放たれていることになる。
 この光度を約100キロメートル下の地球上で見るとどのくらいの明るさ、すなわち照度になるだろうか。照度の単位は、光度カンデラをもとに決められたルクスが一般的だ。照度は、光源からの距離の2乗に逆比例して弱くなっていく。たとえば、晴れた日の大きく開いた窓際では1000ルクス程度の明るさだが、窓から5メートルも離れると30ルクスにまで減ってしまう。勉強をするとき眼にもっともいいのは100ルクス程度。
 オーロラの場合、ふつうのカーテンオーロラで0.1から0.01ルクスだが、これは、直径2センチメートルのろうそくから1メートル離れたところの照度が1ルクスであることを考えるとだいたい想像がつく。


オーロラの色
 図3は、オーロラの色と虹の色を比較している。オーロラの色はどのように決まるのか、真空放電管を使って説明しよう。放電管の両端に1万ボルトもの高電圧をかけると、マイナス極から電子が放出され、プラス極に向かう。放電管の中は真空といっても完全な真空でなく(世の中に完全な真空はない)、気体がごくわずか残っている。残っているその気体の分子や原子は、加速された電子の衝突を受けると、電気的にプラスとマイナスに離された不安定な状態になる。電子が分子や原子にエネルギーを与えるといってもいいし、原子から電子がたたき出されると考えてもよい。ともかく、この不安定な状態から元の安定な状態に戻ろうとするとき、それらの原子・分子に特有の波長(つまり、色)の光がエネルギーとして放出される。これがオーロラ発光の原理である。
 オーロラにもっとも多く見られる白っぽいグリーンは酸素原子との衝突から、ブルーは窒素分子との衝突からである。酸素原子からは、赤い光が出る反応ルートもある。カーテンの上部が赤くなっていたり、血のような真っ赤なオーロラが全天を染めるのも、この6300Å(オングストローム)の光を放つプロセスによる。
 オーロラの光は、基本的に、大気成分のほとんどを占める酸素と窒素からの光であるが、オーロラの高さと色にも一定の規則性がある。オーロラとして光る以前にほかの粒子に衝突してしまうと、オーロラにはなれない。このため、反応時間の長い原子や分子が光を放つには、ほかの粒子にぶつからない程度の「大気密度」が必要となってくる。たとえば、酸素原子の赤い光の放出には約110秒必要で、このためには空気が充分に薄い250キロメートル以上上空でなければならない。カーテンの上部がときどき赤いのは、このためである。逆に、窒素分子のブルーの光がでるには短い反応時間でいいので、より濃い大気の100キロメートルでも光ることができる。
 したがって、オーロラの光を観測すると、上層大気にどんな種類の原子や分子が存在しているのかもわかることになる。これまでの研究から、O、O+、O2、O+2、N、N+、N2、N+2、Heが上層大気の主成分であることがわかってきた。ということは、オーロラは「地球の光」であるとも言える。

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図3  太陽の光(上)とオーロラの典型的な色(下)との比較。太陽のスペクトル(光をいろいろな波長に分けること)は、虹と同じく紫から赤まで、連続の色でできているが、オーロラの色は不連続。オーロラのそれぞれの色は、独特の粒子衝突/化学反応過程を示している。図は、「オーロラ 太陽からのメッセージ」(上出洋介著、山と渓谷社刊)より転載。


カーテン状のオーロラ
 オーロラといえば、すぐカーテン状の形を思い浮かべる。カーテンを特徴づけるのは、なんといってもそのヒダである。オーロラカーテンのヒダは、実はその地点の地球磁場の方向を表している。つまり、ヒダは磁力線に沿っているということである。
したがって、東か西を向いて撮影したオーロラの写真でヒダの角度を見れば、その写真を撮った緯度(地磁気緯度)の見当がつく。高緯度へ行くほど、ヒダは垂直に近くなり、低緯度ほどその角度は「寝て」くる。極端な例だが、もし赤道地方(ただし、地磁気緯度の赤道)にオーロラが現れたら、ヒダは地上に平行になり、空飛ぶ円盤のように見えるはず。
 オーロラのすばらしさは、そのダイナミックな動きにもある。ヒダの揺れ具合が大きくなればなるほど、また観測者がカーテンに近づけば近づくほど、オーロラカーテンは複雑な形に見える(図4参照)。さらに、カーテンが自分の頭上に来て、カーテンをその真下から見上げれば、天の穴から光が吹き出しているような錯覚に捕らわれる。これがコロナ型と呼ばれているオーロラである。オーロラは高さによって色が変わるから、放射状に光が広がるコロナオーロラでは、複雑な色の組み合わせが楽しめる。頭上にあるコロナオーロラを見ていると、オーロラがカーテン形であることをすっかり忘れてしまい、オーロラの光に包みこまれるようにさえ感じる。

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図4  オーロラカーテンとコロナ状オーロラ。見た目は違うが本来は同じオーロラで、その違いの基本は遠近効である。遠い地点(A)からはカーテン状に見えるが、より近い地点(B)からは弧を描いて見える。カーテンの真下(C)からは、カーテンのひだ(レイ構造)が1点に集中して、その1点から放射状に光が広がるコロナオーロラに見える。カーテンオーロラも見える位置によって形が変わる(右下)。図は、「オーロラ 太陽からのメッセージ」(上出洋介著、山と渓谷社刊)より転載。



オーロラサブストーム
 地球上の1点で見ていると、右に左に、色々な大きさの、色々な色のオーロラが複雑に空を動きまわっているようでも、世界的な規模では、一定のルールにしたがって発達している。このようなオーロラの全貌は、しばしばオーロラサブストームという枠組で語られ、そのおよそのオーロラ分布を図5に示す。この場合、サブ(sub)というのは副という意味ではなく、基本という意味である。
 1時間ほど前に北の地平線近くに青白く光っていたオーロラは、ゆっくりと南に移動している。東西に長く橋のように伸びている。天頂に近づくにつれて移動スピードは増しているようだ。よく見ると、その長いオーロラにはヒダがいくつもついて、不規則にゆらゆらと動いている。数も2、3本に増えたようだ。突然、おそらく数秒のうちに、その1点にグリーンやピンクの明るい色がつき出し、カーテンの揺れは大きくなる。まるで、天から光の束が吹き出しているようだ。
 これがオーロラ爆発(ブレークアップ)であり、オーロラサブストームの開始である。あっという間に、明るい光の束が、ぐるぐる巻かれながら全天に広がる。カーテンにはうねりや折りたたみができる。この激しい動きは、主として極側(オーロラが来た方向)と夕方側(西)へ毎秒数キロメートルで移動する。夕方側へは大きな波がうねりながら進み大波構造オーロラと呼ばれるダイナミックなオーロラの形ができる。朝方へは、ゆっくりとふくらむように動いていくのがわかる。

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図5  オーロラサブストーム(S.-I. Akasofuによる)。T = 0はサブストームの急始の時刻を表す。

 

オーロラのふるさと

 オーロラのふるさとは太陽にある。もっと正確にいえば、太陽の大気外延、すなわちコロナである。太陽は、全体として常時3.9×1026ワットものエネルギーを放出しており、これは大地震のエネルギーの数千億倍にあたる。
 太陽のエネルギーは大きく3つに分けられ、そのほとんどは「太陽の光」といわれている可視光のエネルギー。2番目はX線・紫外線の類で、これらのエネルギーのほとんどは成層圏より上部でほとんど吸収されてしまい、地上には届かない。地球に光と熱を与えているほかに、太陽は第3のエネルギーとして高エネルギー粒子や「プラズマ」を四方八方に放出している。このプラズマの流れは「太陽風」と呼ばれ、100〜1000万度もの高温のコロナから吹き出されている。
 太陽風のエネルギーは第2のモード、X線・紫外線のエネルギーとほぼ同じ程度であるが、この量は太陽光の100万分の1にすぎない。「風」とはいうが、太陽風の中には荷電粒子は1立方センチメートル当りわずか10個程度。現代の工学技術で作り出される最高の真空でさえ、1立方センチメートルに分子を100万個も含んでいることを考えれば、太陽風は虚無の世界といわれても仕方がない。しかしそのわずかな(太陽にしてみれば)エネルギーが、地球のまわりにオーロラのもとになる巨大発電所をつくる働きをすることがわかってきた。コロナのエネルギーは非常に大きく、太陽の巨大な重力さえもこのコロナ・ガスを維持できない。すなわち、太陽風は巨大な太陽重力をふり切って飛び出してくる。
 太陽風のスピードで、太陽から地球までは3日間かかる。地球近くではふつう、毎秒400-500キロメートルの速さである。太陽活動が高まると、太陽風のスピードは最高5倍にもなることがある。
 その太陽風が地球に近づくと、地球の磁力に妨げられ、ある程度以上は入ってくることができず、地球を取り巻くようにして流れる。その結果、彗星に似た形をした「磁気圏」という空間ができる。図6に示すように、この地球磁場の勢力範囲は、広い宇宙空間から見れば、太陽風の中にポッカリあいた空洞のように見えるだろう。また、太陽風は太陽磁場をも引きちぎってくるので、地球の磁場と作用をする。そして、彗星と同じように、地球には長い磁場の尻尾ができる。ハレー彗星の尾が、いつも太陽と逆方向に吹いているのはこのためである。
 プラズマが磁力線を横切って走ると電力が生じる。これは「MHD(磁気流体)発電」と呼ばれ、太陽風と地球の磁場は、出力数兆ワットにも達する自然の大発電所を作っているのである。この起電力の一部が地球の高緯度地方で放電現象を起こし、オーロラの源となっている。

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図6  太陽風と地球磁気圏(地球磁場の勢力圏)。地球磁気圏は、太陽風(つまり、太陽大気)の中にぽっかりできた空洞のようなものだ。太陽風は磁気圏の正面からは中に入れず、まわりを吹きつけていく。太陽風と地球磁場の相互作用でオーロラができる。図は、「オーロラ 太陽からのメッセージ」(上出洋介著、山と渓谷社刊)より転載。 

 

オーロラの2つの原因 <フレアーとコロナの穴>
 フレアーは黒点付近で複雑な磁場構造により発生し、惑星間空間にエネルギーが放出される現象である。この効果は、地球まで衝撃波(津波)を伴ってやってくる。フレアーはわずか1時間程度の現象であり、その太陽風効果も地球付近を約1、2日で通り過ぎてしまう。フレアーは、赤道を中心とした低緯度でよく起きる。太陽面でフレアーがどのようにして発生するのかは、よくわかっていないが、黒点磁場と密接な関係があるとされている。
 大きな磁気嵐は、フレアーに原因があることが多い。このとき、活発なオーロラの出現が2、3日も続く。磁気嵐のときは、地球の回りの赤道面を中心にリング状の強力な(何百、千万アンペアもの)電流が流れる。
 黒点やフレアーが太陽の低緯度の現象であるのにくらべ、コロナの穴(coronal hole)は高緯度に多い。コロナは100〜1000万度の高温で、ここから出る光の大部分は軟X線である。したがって可視光線を使って光球面を見ることができるように、X線を使えばコロナの構造を探ることができるというわけである。しかし、X線は地球の大気に吸収されてしまうので、大気圏の外に出て観測を行わなければならない。NASAの宇宙実験室「スカイラブ」が太陽のX線像を連続的に撮影することに成功し、コロナの穴が確認された。コロナホールは、密度が低いのでX線写真で暗く見えるが、磁力線は外に向かって吹き出す形になっており、この領域から高速の太陽風が吹き出していたのである。太陽風のスピードは回りに比べて速く、これはオーロラをつくるのにいい条件である。


オーロラを流れるジェット電流
 オーロラの中には大電流が流れている。まるで偏西風に乗って流れるジェット気流のように、大きなスケールのオーロラの中に集中して流れているので、この電流はオーロラジェット電流と呼ばれている。オーロラサブストームが最高潮のときには、全電流は数千万アンペアにも達する。かかっている電圧は数百キロボルト、電力にして100億キロワットという膨大な量である。
 一般にオーロラジェット電流は、オーロラが明るければ明るいほど強い。だから、ブレークアップのときには、電流量が急に何倍も増える。わずか5分間に、10倍以上増大することもある。オーロラ電流は、ロケットをオーロラに打ち当てて計ることもできるし、地上のレーダー観測から確かめることもできる。しかし、最近わかってきたことは、オーロラが暗くても電流が強いことがしばしばあるということだ。
 オーロラジェット電流による磁場効果は、日本のような中緯度はもとより、はるか赤道地域にまで及ぶ。つまり、日本でオーロラが見えなくても、磁場の変化を見ていれば、いまどこにオーロラが出ているか想像できることになる。こうした磁場変動を世界中で観測していれば、オーロラ電流の分布を計算できるはずである。図7は、オーロラサブストームが最高潮に達したときの例を多数集めて、地上の磁場変動のデータを駆使して、オーロラ電流の世界分布を逆算したものである。オーロラが活発な真夜中を中心として、大規模な西向きの電流が流れているのがわかる。そして、夕方側の、うすいぼんやりとしたオーロラの領域には、弱い東向きの電流が流れている。オーロラから出ている熱量も計算できる。
 オーロラの中を流れている電流はいったいどこから来て、どこへ行くのだろう。実は、電流のもとをずっと辿っていくと、太陽風と地球磁場のドッキングでできるMHD発電所から来ていたのである。夜側の大規模な西向き電流には、発電所からの電流供給があり、オーロラカーテンや大波構造など、激しく動く真夜中以前のオーロラからは、電流が上向きに発電所へ還るように流れている。オーロラが比較的弱い朝方でも、強い西向き電流が流れていることがわかっているが、この領域には電流が上から流れ込んでいることが人工衛星の観測でわかってきた。オーロラの上には、何万キロメートルにも拡がる大電流回路があることになる。

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図7  オーロラの中を流れる電流(黄色の矢印)と、オーロラから出る熱量(赤)の世界分布。この図は多くの例を平均したもので、実際の個々のケースでは、電流はもっと緯度的に集中している。上方が太陽の方向、緯度は地磁気緯度である。


ほかの惑星のオーロラ
 オーロラは地球独特のものではない。大気と磁力をもっている惑星なら、オーロラが存在する可能性がある。実際、木星、土星など外惑星にも、オーロラが見つかり、惑星探査船「ボイジャー」やハッブル望遠鏡からの撮影に成功している。木星が地球の1万倍以上の磁力をもっていること、ときどき強い電波がこの星から発射されていることなどから、この星にオーロラがあるらしいことは以前から予想されていた。ボイジャー1号は、地球から出発して1年半経ち、太陽系惑星では一番大きい木星に接近し、人類初の木星オーロラの紫外線撮影に成功した(図8)。地球でのオーロラと同じく、南北緯度65-75度あたりに現われるが、明るさは地球のオーロラの100倍以上もあった。興味あるのは、オーロラの場所を磁力線に沿って外に辿ると、ちょうど木星の衛星イオ(Io)に相当すること。ボイジャー1号はイオの活火山をも発見し、木星のオーロラはこの火山から噴出される粒子が原因ではないかと想像される。
 その後、ハッブル望遠鏡を搭載した人工衛星が、木星と土星のオーロラ写真撮影に成功している(図9)。さらにそれらの外にある天王星、海王星でもオーロラの存在が確認されている。もちろん、それぞれの惑星の大気成分が違うため、色、波長域は異なっているが、オーロラがある惑星の共通の条件は、その惑星が自分自身の「大気」と「磁場」をもっていることである。大気はその惑星の温度を一定に保ち、昼・夜の温度差を少なくし、生命が棲みやすくなる条件を作っている。しかし、地球以外のこれらの惑星では太陽からの距離が遠くて、大気温度が低すぎる。磁場にしても、惑星が磁場をもっているということは、それほど自明のことではない。
 逆に、大気と磁場のいずれかがない星では、オーロラを見ることができない。磁場がない、あるいは非常に弱い惑星である金星と火星に、オーロラは期待できない。もちろん、月にもオーロラはない。これらの星は、内部は固いものでできており、電流の流れる余地がないということだ。また、立派な磁場はあるが、太陽に近すぎて大気がない水星にも、オーロラはあり得ない。

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図8  地球以外の惑星でもオーロラが見られる。ボイジャー1号は木星のオーロラを撮影することに成功した。木星の直径は地球の11倍の71500キロあるので、地球のオーロラよりはるかに長い。下部には雷光らしきものが写っている

 

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図9  紫外線でとらえた木星(左)と土星(右)のオーロラ。それぞれ、1994年7月17日、1995年10月9日、ハッブル望遠鏡から撮影。

 

宇宙の実験室
 オーロラは、太陽や地球の上空のさまざまな現象と密接に絡み合っている。したがって、オーロラだけに取り組む研究者は世界中に誰もいない。オーロラの謎が解明されるときは、太陽と地球の正しい関係がわかったときということにもなる。
 オーロラは、自然が私たちに与えてくれたひとつのヒントであるといえる。オーロラのエネルギーを運ぶ太陽−地球間の宇宙空間(図10)は、ユニークな実験室であり、研究室となっている。電磁気学やプラズマ物理学などの基本法則の上に組み立てられた理論やモデルを、観測データを使って検証できるからである。たとえば、オーロラのエネルギーはどこに貯蔵され、オーロラ粒子はどこでどのように加速されるのか、といった基本的な疑問がここでテストされる。
 20世紀に入ってからの数々の観測、実験を通し、オーロラは宇宙で起きている大規模な放電現象であることがつきとめられた。しかし、放電だとすれば、どこかで発電が起きていなければならない。その発電所をさがしているうち、私たちは人工衛星によってエネルギー源を探りあてたのである。太陽風と地球の磁場の相互作用が大事だったのである。オーロラは地球の夜側で活発なのに、エネルギーの源は昼の側、太陽にあったのだ。
 ほんの少しの与えられたヒントをつなぎ合わせて、人間は、太陽と地球の関係を探っている。オーロラは、その微妙な関係のほんのひとつの表れにすぎない。オーロラのヴェールが完全に剥がされたときは、太陽と地球環境の関係がすべて解明されたときである。

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図10  太陽と地球の間の空間は、理論と観測がうまく調和したユニークな研究室であり、実験場であるといえる。オーロラを含む地球の周辺で発生している電磁気現象、つまり自然の大実験場でおきているプラズマ過程である。

 



図の説明

図1  オーロラ出現確率の世界分布図。M = 100という線は、この地点では1年に100晩オーロラが見えることを示している。北海道あたりのM = 0.1という線は統計上10年に1度見えることを示している。

図2  オーロラ電子によって電離される超高層大気の粒子数。それぞれ、個/cm2 秒、個/cc 秒)で表す。計算はPeter Banksによる。

図3  太陽の光(上)とオーロラの典型的な色(下)との比較。太陽のスペクトル(光をいろいろな波長に分けること)は、虹と同じく紫から赤まで、連続の色でできているが、オーロラの色は不連続。オーロラのそれぞれの色は、独特の粒子衝突/化
学反応過程を示している。図は、「オーロラ 太陽からのメッセージ」(上出洋介著、山と渓谷社刊)より転載。

図4  オーロラカーテンとコロナ状オーロラ。見た目は違うが本来は同じオーロラで、その違いの基本は遠近効である。遠い地点(A)からはカーテン状に見えるが、より近い地点(B)からは弧を描いて見える。カーテンの真下(C)からは、カーテンのひだ(レイ構造)が1点に集中して、その1点から放射状に光が広がるコロナオーロラに見える。カーテンオーロラも見える位置によって形が変わる(右下)。図は、「オーロラ 太陽からのメッセージ」(上出洋介著、山と渓谷社刊)より転載。

図5  オーロラサブストーム(S.-I. Akasofuによる)。T = 0はサブストームの急始の時刻を表す。

図6  太陽風と地球磁気圏(地球磁場の勢力圏)。地球磁気圏は、太陽風(つまり、太陽大気)の中にぽっかりできた空洞のようなものだ。太陽風は磁気圏の正面からは中に入れず、まわりを吹きつけていく。太陽風と地球磁場の相互作用でオーロラができる。図は、「オーロラ 太陽からのメッセージ」(上出洋介著、山と渓谷社刊)より転載。

図7  オーロラの中を流れる電流(黄色の矢印)と、オーロラから出る熱量(赤)の世界分布。この図は多くの例を平均したもので、実際の個々のケースでは、電流はもっと緯度的に集中している。上方が太陽の方向、緯度は地磁気緯度である。

図8  地球以外の惑星でもオーロラが見られる。ボイジャー1号は木星のオーロラを撮影することに成功した。木星の直径は地球の11倍の71500キロあるので、地球のオーロラよりはるかに長い。下部には雷光らしきものが写っている。

図9  紫外線でとらえた木星(左)と土星(右)のオーロラ。それぞれ、1994年7月17日、1995年10月9日、ハッブル望遠鏡から撮影。

図10  太陽と地球の間の空間は、理論と観測がうまく調和したユニークな研究室であり、実験場であるといえる。オーロラを含む地球の周辺で発生している電磁気現象、つまり自然の大実験場でおきているプラズマ過程である。