木星の電波

 木星は、太陽系の9つの惑星の中で最大の惑星です。同時に木星は、太陽系の中で最も強い電波を放射している惑星でもあります。木星から放射されている電波の中で最も強度が強いのは波長およそ10mの電波(周波数で3MHzー30MHz)で、木星デカメートル電波と呼ばれています。デカメートルの「デカ」は波長10mであることを示す言葉です。この周波数帯の電波は、地球では短波の通信に利用されています。木星が、このような電波を放射していることは1955年にバークという人によって発見されました。この電波は、強度が激しく変化するバースト性の電波で、数ミリ秒から数秒の時間範囲でさまざまな様相を示します。図1に地上観測によって得られた木星デカメートル電波の一例を示します。

fig1.jpg (27182 バイト)

図1 地上観測で得られた木星デカメートル電波の例。縦軸に電波の周波数、横軸に時間をとって表示しています。黒が濃い所が、電波の強い所を示しています。

 

 可視光で見た木星は、有名な大赤斑を伴う縞模様をもっています。地球の場合とちがって、木星は主に水素とヘリウムからなるガスの塊なので、縞模様の速さから計られる自転周期が北極や南極と赤道とでは異なっています。この自転周期は赤道で9時間50分30秒(システムI自転周期)、高緯度で9時間55分41秒(システムII自転周期)となっています。デカメートル電波はこの木星の1自転の間に2回、ちょうど灯台の光のように周期的に地球上で観測されます(図2参照)。その周期を詳しく調べると、システムI、システムIIとも一致せず9時間55分29秒であることがわかりました。この周期は木星の磁場の自転周期になっています。つまり電波で見ると木星の磁場を作る内部のコアの回転周期(システムIII自転周期)を見ることができるのです。この磁場をもつ天体の自転によって放射されるという木星の電波放射のしかたは、周期は異なりますが、強い磁場を持って回転する中性子星がその正体と考えられるパルサーと様々な共通点があります。木星のデカメートル電波の謎を探ることは、パルサーの謎と共通した物理を解明することにつながると考えられます。

fig2.jpg (28408 バイト)

図2 木星デカメートル電波の出現頻度を木星のシステムIII経度に対して表示したもの。木星の1自転の間に2回、木星のシステムIII経度が90度から150度と、210度から300度の領域が地球を向いたとき、デカメートル電波が高い頻度で観測されます。

 

 この強いデカメートル電波はどのようにして発生しているのでしょうか。その詳しいしくみは、地球でオーロラに伴って発生する電波や他の天体からの電波放射現象と共通した物理をもっていると考えられます。すなわち、プラズマ中で加速された電子がプラズマ波動をひきおこし、それが電波として放射されます。では、電子を加速し電波放射を行う、もともとのエネルギーはどこから来るのでしょうか。地球の場合、それは太陽風からくるエネルギーです。木星も太陽風のエネルギーを同じように受けていて、それをエネルギー源とした電波放射がありますが、木星の場合にはそれ以外にも独自のエネルギー源があります。それは木星自身の発電するエネルギーです。

 木星は、半径が地球の10倍もある巨大な惑星ですが、その磁場も強力で自転速度も速いのです。磁場の強さは、中心から距離を同じにすると、地球の33000倍に達します。強い磁場をもち、10時間弱の周期で高速回転すると、遠心力によって外部に流出するプラズマの流れをつくり、磁場との相対運動が生じて発電作用を起こします。この電力が木星本体に磁力線を伝わって運ばれ電子の加速を引き起こします。こうして加速された電子が木星のオーロラを光らせ、デカメーター電波を放射させていると考えられます。木星からは1〜10MeVの高エネルギー粒子の放出がありますが、その原因もパルサーの場合と同じように、この自転による発電作用に原因があります。

 木星には、自転のエネルギーをより効果的に取り出すしくみがあります。木星にはガリレオが発見した4つの衛星がありますが、その一番内側をまわるイオ衛星がそれです。イオ衛星は、デカメートル電波の放射と深く関わっています。イオ衛星は、その軌道が木星に近く、木星本体から強い潮汐力をうけるため、太陽系でもっとも激しい火山活動をしています。図3にイオ衛星の火山の様子を示します。この火山から生じたガス(主に硫黄)が電離し、イオ衛星をとりまき、さらにイオの軌道に沿ってドーナツ状に分布します。これをイオプラズマトーラスと呼びます。トーラスとはドーナツのような形をという意味です。トーラスのプラズマは、木星の磁場の作用で木星と一緒に回転しようとしますが、このトーラスのプラズマの速度は、イオ衛星の公転速度と違うため、イオ衛星周辺では、大きな相対速度が生じます。この効果によってイオ衛星周辺は木星の自転のエネルギーを使って2兆ワットにも達する巨大な発電機となり、そのエネルギーが磁力線に沿って木星本体へと運ばれ、これが際立って強いデカメーター電波放射の原因となっています。

fig3.jpg (25860 バイト)

図3 イオ衛星の火山。イオ衛星の火山から放出された多量のガスが電離して、プラズマとなり、イオ衛星の周辺に存在することが、強い木星デカメートル電波を生む原因となっています。(taken from NASA Planetary Photojournal (http://photojournal-b.jpl.nasa.gov))

 このイオ衛星にエネルギー源をもつ電波を詳しく見てみましょう。図4にその例を示します。この電波は、Sバーストとよばれています。SバーストのSはShortのSで、短い時間スケールの変動する電波放射であることを示しています。わずか100ミリ秒の間に一挙に放射周波数が2MHzも低下します。周波数は、磁場の強さを反映していて、およそ光速の10%ものスピードで電子ビームが木星の電離層から外側へ噴出していくことを示しています。このように木星デカメートル電波は、木星で生じる変化に富んだ自然の姿を生き生きと伝えてくれる、重要な情報の運び手なのです。

fig4.jpg (39748 バイト)

図4 木星デカメートル電波Sバーストの例。わずか100ミリ秒の間に周波数が2MHzも変化する強度の強い放射です。

 木星からは、デカメートル電波以外にも特徴ある電波が放射されています。その一つは、デカメートル電波より周波数で100倍高い、波長でいうと1/100の数10cmの波長をもつデシメートル電波です。「デシ」は1/10m、つまり波長が数10cmの電波であることを示す言葉です。このデシメートル電波は、高いエネルギーの粒子によって生じるシンクロトロン放射という機構で放射されています。シンクロトロン放射は、光速度にせまる高いエネルギーの粒子、特に電子が磁場にとらえられて放射する電波です。木星にはこのようなエネルギーの高い粒子が多量に捕えられている領域があり、放射線帯と呼ばれています。地球にも同じような放射線帯があり、発見者の名にちなんでバンアレン帯と呼ばれていますが、木星の放射線帯は、地球の場合よりも粒子のエネルギーが高く、その規模も巨大です。木星の放射線帯の粒子のシンクロトロン放射を観測した例を図5に示します。

fig5.jpg (32157 バイト)

図5 木星の放射線帯粒子のシンクロトロン放射。放射強度が強いところが赤で示されています。(Bolton and Thorne, Planetary Radio Emissions IV, 1997)

 この様な高いエネルギーをもつ粒子はどのようにして作られるのでしょうか。そのメカニズムには今も多くの謎が残されたままです。この謎の解明のためには、その粒子が放射するシンクロトロン放射の電波を長時間にわたって詳しくしらべることが重要です。日本では、東北大学の惑星プラズマ・大気研究センターがその謎の解明に取り組んでいます。