太陽系の惑星のうち、水星、金星、地球、火星は、大きさが小さい割には平均密度が高く、主に岩石からなっていて、「地球型惑星」と呼ばれています。この中では、一番内側の水星を除く金星、地球、火星には大気が存在しています。金星と火星は、1960年代から人工衛星による観測が行われ、かなりのデータが得られています。木星、土星、天王星、海王星は「木星型惑星」と呼ばれていて、固体部分は非常に小さく、主に水素やヘリウムを主成分とするガスのかたまりです。木星型惑星の大気は、金星や火星などに比べて観測のデータが少なく、詳しいことはわかっていませんが、大気に特徴的な模様があるために、地上やハッブル宇宙望遠鏡などからの観測によって大気のダイナミックスが調べられています。一番外側の冥王星にも大気があると考えられています。以下では、これらの惑星の大気、電離圏について簡単に説明します。地球の大気、電離圏、磁気圏などについては別の項目で説明があるので、ここでは説明を省略します。ここでは惑星の大気しか述べませんが、イオやタイタン、トリトンなどのように衛星にも大気を持っているものがあり、電離圏なども形成されています。
金星の大気
金星は太陽から2番目の惑星で、半径は地球よりわずかに小さく6050kmです。自転が非常に遅いのが特徴で、地球の243日かかってやっと1回転します。また、他の惑星とは逆向きに回転しています。金星は1962年にマリナー2号が観測に成功して以来、米国や旧ソ連の惑星探査機によってさまざまな観測が行われました。表面の大気圧は90気圧で、大気の組成は二酸化炭素(CO2)が96%、窒素(N2)が3%程度存在しています。また、高度50〜70キロメートルには硫酸でできた雲の層があり、金星表面を完全に覆い隠しています。このCO2の大気は強い温室効果をおよぼし、金星の表面温度を420〜485℃という大変な高温にしています。硫酸の雲の付近では自転の向きに東西に非常に強い風(秒速100m/s程度)が吹いています。この風は金星表面の自転の速さよりはるかに大きく、超回転(スーパーローテーション)と呼ばれています。自転の非常に遅い金星でなぜそのような高速の風が生成されるのかはいまだに謎です。また、金星が形成されてからしばらくの間は、金星表面にはかなりの量の水(海または湖沼)があったと考えられていますが、今では全て蒸発して乾いています。この大量の水がどのようにして宇宙空間へ逃げ出したかに関しては、いろいろな考え方があります。金星表面は非常に高温ですが、高度100km以上では逆に冷たく、“熱圏”の温度は100〜300Kで、地球の上部熱圏が温度700〜1300Kであるのと比べると非常に低くなっています。これは、CO2の赤外放射による冷却作用によるものと考えられています。
金星電離圏は、主に120km以上の高度に存在し、140km付近で電子密度が最大で約8x10^5 cm-3に達します。イオン組成は、高度180km以下では酸素分子イオン(O2+)が主成分で、電離圏上部では酸素原子イオン(O+)が主成分になります。金星は地球のような固有磁場がないために「磁気圏」がなく、太陽風が電離大気や中性大気と直接ぶつかります。その結果、太陽風の圧力を電離圏のプラズマの圧力で支えることになります。太陽風プラズマの領域と金星電離圏の領域は、電離圏界面(Ionopause)と呼ばれ、太陽風と無磁場惑星の相互作用に特徴的な境界面です。電離圏界面より高いところでは太陽風が持っている磁場が堆積して磁気シースという磁場が比較的強い領域が形成されます。しかし電離圏の中では磁場は非常に弱くなっています。電離圏界面の高度は太陽風と電離圏の圧力バランスで決まってきます。しかし、太陽風の圧力が強くなると電離圏界面の高度は下がり、電離圏の厚さが薄くなります。このような場合には、太陽風の磁場も電離圏に侵入してくることが知られています。太陽風によって大気がはぎ取られて大気の進化に影響を及ぼすという考えもあり、現在研究が進められています。金星の自転は非常に遅いですが、夜側にも電離圏があることが知られています。これは、昼側からイオンが運ばれてくる効果と、夜側での電子の降り込みによって中性大気が電離したできる効果の両方が重要と考えられています。
火星の大気
火星は、太陽から4番目の惑星で、半径は約3400kmです。これは地球の半分より少し大きい位です。火星は1965年のマリナー4号以来、米国と旧ソ連の人工衛星によって調べられてきました。火星の軌道はかなり楕円形であるため、太陽直下での温度は近日点と遠日点では約30度も変わり、火星の気候にも影響を与えます。火星表面の平均温度は約220Kですが、冬の極点の140Kから、夏の昼間の300Kまで大きく変わります。大気組成はCO2が約95%、N2が約3%、その他ごくわずかなAr, O2, CO, H2Oなどが存在しています。水蒸気は0.03%程度しかありません。表面での平均気圧は、約7ミリバール(地球の1%以下)です。火星大気ではしばしば砂嵐(ダストストーム)が起きることが知られていて、大きなダストストームが起こると表面の模様が全く見えなくなってしまうこともあります。このダストストームの原因はまだ十分に解明されていませんが、大気中のダストと大気の流れが複雑に影響を及ぼしあった結果作られているようです。
火星には、主に固体のCO2(ドライアイス)からなる極冠が両極にあります。北半球の夏には固体のCO2は完全に昇華し、水の氷の層が残されます。南極冠では、CO2の層は完全には消失しません。また、極冠の季節変動により全球的な大気圧が約25%変動すると考えられています。これまでの火星探査衛星の観測では、火星表面に水の流れた跡と思われる地形がいくつも発見されていて、極冠以外の地表面下にも、水の氷が隠されているかも知れません。
火星の超高層大気は、200km付近まではCO2が主成分で、200km以上ではOが主成分となっています。熱圏の中性大気の温度は、金星のように低温ですが、金星よりも太陽活動や季節変動の影響を強く受けていて、150K程度から350K程度まで変動しているようです。電離圏の電子密度は高度130km付近で最大で、約10^5 cm-3です。電子密度は高度とともに減少していきます。夜側の電離圏はまだ直接確認されていませんが、かなり小さいのではないか(約10^3 cm-3)と推定されています。火星は金星と同様、固有磁場を持っていないので磁気圏が形成されず、太陽風が直接電離圏や熱圏と相互作用しています。火星の電離圏は金星と似ているところと異なるところがあります。似ている点は、火星の電離圏に太陽風起源の磁場があることです。磁場の分布や構造も金星のものとよく似ています。異なっている点は、火星にはあちこちにかなり強い地殻起源の残留磁場があり、電離圏でも場所によっては地殻起源の磁場が支配的になっている点です。電子密度の高度分布は金星とかなり異なっていて、太陽風動圧の変動に伴う変動があまりないように見えます。電離圏界面の構造も金星ほどはっきりしていないようです。太陽風と火星の相互作用は金星よりもはるかに複雑ではないかと考えられています。その原因の一つは、前述した地殻起源の磁場が局所的に大きな影響を及ぼしていることです。プラズマは、磁場の影響を強く受けるために、磁場によって衝撃波面や電離圏の構造が変わってくることが考えられています。もう一つの原因は、火星の周辺では、イオンの粒子が回転する半径(ラーマー半径)が火星の大きさよりも大きくなるために、プラズマが流体的な振る舞いをしていないということです。このような条件で火星周辺のプラズマ環境がどのようになるかは大きな問題です。
木星の大気
木星は太陽系の第5番目の惑星で、太陽系で最も大きい惑星です。赤道半径は71400kmもあり、地球の約11倍の大きさです。木星は1973年以降、パイオニア10, 11号、ボイジャー1, 2号、ユリシーズ、それに最近のガリレオなどによる探査機によって調べられています。木星大気は、90%が水素、10%がヘリウム、それ以外にごく微量のCH4, C2H2, C2H6, NH3, H2O, PH3などでできています。これは、原始太陽系星雲の組成に近いものです。木星の大気では高速の風が吹いており、帯状の領域が形成されています。この帯は、化学組成の違いによって色が変わって見えると考えられていますが、詳しいことはわかっていません。木星大気に特徴的な大赤斑は、地球2個くらいもある大きさです。同様の構造は土星と海王星にも発見されています。このような構造がなぜ長期間にわたり維持されているのかはわかっていません。
木星大気の上層部は、中性大気は水素分子(H2)や水素原子(H)が主成分となり、電離大気は、上部ではH+, H3+、下部はCH3+, C2H5+などのイオンでできています。熱圏上部の温度は1100K程度です。太陽から遠い木星では、紫外線の強度は小さいですが、電離圏の電子密度はピーク付近で10^5 cm-3あり、地球型惑星の電離圏の密度とあまり変わりません。これは、H+が化学反応で消滅する時間が長いためであると考えられています。オーロラ領域では、太陽紫外線による電離の他、高エネルギー粒子による電離が重要になります。電離圏下部では、電子密度の高度分布は非常に不規則で、いくつもの層が形成されているようです。これは、非常に寿命の長い金属イオン(Fe, Mgなど)と電離圏の運動の効果が合わさってできていると考えられています。また、木星には地球よりはるかに強い磁場が存在しています。このため、地球のように磁気圏と電離圏が相互作用してオーロラが発生していることがわかっています。電離圏の運動もこの強い磁場に影響を受けています。また、木星は周期10時間程度と非常に速く自転しているため、昼夜の電離圏の密度はそれ程違いはありません。
土星の大気
土星は太陽から6番目の惑星で、木星の次に大きい惑星です。赤道半径は60000kmです。土星は、パイオニア11号、ボイジャー1,2号によって観測されています。木星と同じく、大気組成は、94%が水素で、6%がヘリウムで、その他、わずかなCH4, NH3, C2H6, PH3, C2H2などでできていています。土星でも、木星ほどはっきりしていませんが、帯状の雲の構造が見つかっています。その他にもいろいろな形の雲があります。
超高層大気は、熱圏上部の大気温度が750K位で、木星のようにH2, Hなどが主成分です。探査機やハッブル宇宙望遠鏡などの観測で、土星にもオーロラがあることがわかっています。電離圏の電子密度は、ピークでも10^4 cm-3程度で、木星に比べると小さくなっています。また、高度分布も不規則な構造を示しています。木星同様、ダイナミックスの影響や金属イオンの影響のほか、土星の衛星タイタンの大気からの窒素原子の流入などの影響もあるのではないかと考えられています。土星もかなりの強さの磁場を持っているために、電離圏の運動は磁場の影響を受けています。オーロラの領域では、高エネルギー粒子による電離によって電子密度は大きくなっているものと推測されます。
天王星の大気
天王星は、太陽から7番目の惑星で、半径は約25600kmです。大気の観測は1986年のボイジャー2号による観測しかありません。天王星の主な大気成分は、83%が水素、15%がヘリウム、2%がCH4です。木星や土星のように天王星にも雲の帯が見つかっています。超高層大気は、上層部の中性大気温度が750Kで、木星のようにH2, Hなどが主成分です。電離圏の電子密度は、土星のように非常に不規則で電離圏下部に10^5 cm-3 程度の非常に薄い電離層がいくつかありますが、上部は10^3 cm-3 程度の電子密度しかありません。この低い電子密度の原因は、太陽紫外線強度が弱いことに加えて、天王星の環に微隕石が衝突して作られた氷(H2O)の粒が天王星の大気に入り、これがイオンと反応してイオンの消滅を速めている可能性が考えられています。
太陽系のほとんどの惑星は、自転軸が黄道面にほぼ垂直ですが、天王星の自転軸は黄道面にほとんど平行、すなわち横倒しになっています。また、天王星の磁場の中心は惑星の中心から外れていて、磁場の軸は自転軸から60度傾いています。このため、天王星の大気や電離圏、磁気圏のダイナミックスは、地球や木星などに比べてはるかに複雑になっていると予想されています。
海王星の大気
海王星は太陽から8番目の惑星です。赤道半径は24800kmです。海王星は1989年のボイジャー2号の一回だけしか観測されていません。大気成分は、他の木星型惑星と同様、水素とヘリウムがほとんどで、その他はCH4などです。ヘリウムの割合が天王星よりも少し多いらしいという以外、大気の組成比の詳しい値はわかっていません。海王星にも帯状の強い風が吹いており、嵐や渦や「大黒班」などもあります。
超高層大気は、天王星とよく似ていて、上層部は約800Kの温度で、HとH2からなっています。電離圏も天王星同様、電子密度が小さく、最大でも2x10^3 cm-3程度です。この値は海王星の衛星トリトンの電離圏の電子密度2x10^4 cm-3程度より一桁も小さい値です。海王星の電離圏の電子密度が小さい原因としては、海王星の電離圏にトリトンの大気中のNなどが降ってきていることが考えられています。逆に、トリトンの電離圏の電子密度が大きいのは、海王星の磁気圏の粒子がトリトンの大気を電離しているためではないかと推測されています。
海王星の磁場は、天王星のように、自転軸と磁場の軸が大きくずれており、磁気圏や電離圏の運動にも複雑な影響を及ぼしていると思われます。
冥王星の大気
冥王星は、現在、太陽系で最も外側にあるとされている惑星です。残念ながら、冥王星にはまだ探査機が行ったことはありませんが、1988年に恒星が冥王星を横切る現象(掩蔽)を利用して、間接的に大気の観測が行われています。その結果は大気の存在を強く示唆するものでした。しかしその密度は極めて低く、地球の表面気圧の10万分の1程度と推測されています。組成はトリトンなどに似て、CH4, N2などと推測されています。もし大気があるとすると、弱いながら電離圏も存在しているでしょう。