地磁気の変化

 

地磁気は変化する

 実を言うと、地上で観測される地磁気は決して一定ではなく、常に変化している。変化の原因となるのは地球規模の様々な自然現象であり、現象によって1秒以下の速さで変動するものから数時間・数日さらには数年・数十年を経て数十万年以上のゆっくりした周期を持つものがある。

 地磁気が変化することは古くから知られており、数年以上の周期のゆっくりとした変化(地磁気永年変化)は、既に1634年英国のGellibrandが見つけている。また、1日周期の規則正しい変化(地磁気日変化、図1)も、1722年に同じく英国のGrahamが発見した。

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図1 地磁気静穏日の記録例。 柿岡(茨城県)での観測例。UTCは世界時(日本時間−9時間)。

 これらのうち、溶けた金属流体が対流する地球中心核(外核)でのダイナモ(発電)作用や地震・火山噴火等の地殻活動による地球内部起源のものは、概ね数日〜数年以上の長い周期を持ち、地上100km以上の超高層大気(電離層,磁気圏)内の現象によるものは、数秒から数日程度の変化が主となる。また、太陽黒点数の増減等太陽活動の推移による磁気嵐活発化・静穏化は11年の長い周期で変動する。

 ここでは、超高層大気に原因を持つ地磁気変化として、地磁気脈動(数秒〜数百秒),地磁気静穏日変化(一日),磁気嵐(数時間〜数日)といった現象について概説する。

 

地磁気の振動 − 地磁気脈動

  (準備中)

 

 

地磁気日変化と電離層電流

 地上で観測される地磁気の変化は日々違った変化の形をしており、おそらく過去のどの一日を比べても、他の日と全く同じであったことはないであろう。それは、様々な原因による変化が複雑に重ね合わされているからである。

 その中で、一見きわめて規則的に見える変化パターンがある。昼間の時間帯いっぱいかけてなだらかに地磁気が変化する場合がそれであり、そいういう日が何日も続くことがしばしばある。磁気嵐の時のように地磁気がランダムに時間変化する日に比べれば、一見きわめてなだらかで一定の規則に沿った変化をするので、このような日を地磁気静穏日とよんでいる。

 地磁気静穏日のなだらかな変化の原因は地上100km〜数100kmの電離層にある。電離層が昼間太陽放射によって暖められ、夜間は太陽放射を受けずに冷えることで生ずる大気潮汐の作用により電離層に潮汐風が起こる。電離層は大気の一部が電離した状態にあるため、潮汐風によって中性大気が移動すれば電離気体もそれにひきずられて動くことになる。磁場中を電離気体が移動すればそこには電場が生ずる。こうして地球規模での潮汐風により、電離層内にグローバルスケールの電場が生ずる。電離層は電気伝導度を持つので、この電場によってグローバルな電流システムが生まれる。この電流システムは地球外部から見ると北(南)半球で反時計(時計)まわりの渦電流になっており、地球の太陽側の電離層にほぼ固定した形で常駐している。よって、地球の自転運動により、観測所がその電流システムの下を移動するとそこでは一日がかりの見かけの地磁気変化が観測される。

 地磁気静穏日の電流システムも細かく観察すると日々微妙に変動している。しかし、電離層内の電流システムが、もっと大きく変動することがある。地磁気が数時間〜数日の間にランダムに大きく変化する磁気嵐の時には、静穏日とは全く異なった電流システムが電離層内に発生する。

 磁気嵐の際には地上で観測される地磁気変化の主な原因は、電離層よりもっと上空にある磁気圏環電流、沿磁力線電流、磁気圏界面電流や磁気圏尾部電流等である。が、磁気嵐の開始時等において、太陽風と磁気圏との相互作用により大規模電場が磁気圏内に生じた時、その電場は磁力線に沿って流れる電流により地球の極域の電離層に印加される。このような電場によって電離層内にグローバルスケールの電流システムを生ずる。この電流システムは昼側では赤道域までおよび、赤道帯電離層特有の電気伝導度異常増加によって、極域を起源とする現象が瞬時にして赤道でも観測される。

 ところで、このような場合に地上で観測される磁場変化から、それを引き起こすグローバル電離層電流の形を逆に推定することができる。推定される電流の構造は図(準備中)のように2組の渦電流になっていることが多い。図をよく見ると、高緯度地域では外部から印可されている電場と直角に近い方向に電流が流れている。これは、磁場中のプラズマの振る舞いのせいで電離層中で電場・磁場双方に対して直角の方向に電流が流れる仕組みによる特殊な性質である。電場と直角な方向に電流が流れるというのは一見矛盾した性質だが、流れる電流の強さは電場に比例するので、電流を電場で割った値すなわち電気伝導度を決めることができる。こうして得られた電気伝導度をHall伝導度とよぶ。これに対して、電場に平行な方向の電気伝導度をPedersen伝導度とよぶ。電離層のような電気伝導度の高い層に外側から流れ込む電流による磁場は、一般的には電離層に流れる電流でシールドされてしまう。が、Hall伝導度やPedersen伝導度の非一様性の効果により、電離層に流れ込む電流による磁場変化が地上で観測される。

 

 

磁気嵐はなぜおきる

  (準備中)

 

サブストームと地磁気

  (準備中)

 

 

地磁気の観測

 地磁気の観測は、紀元前後に中国で発明されたとされるコンパス(磁石)による偏角の測定に遡る。

19世紀半ばには既に地磁気が連続的に観測されるようになったが、多数の観測所が世界各地に設置され、汎世界的な連続観測の態勢が整ったのは、1957-59年の地球観測年(IGY - International Geophysical Year)からである。

 磁場を連続して測定するための測定器−磁力計−の原点となるのは、19世紀中頃から20世紀後半まで長期に渡って用いられてきた吊り磁石式変化計である。水晶糸等で小さい磁石を吊り、それが自然の地磁気変化によって微かに揺れ動くのを磁石に取り付けた鏡に光を当て反射光を光学的に記録する方式である。

 古典的な吊り磁石変化計(図3)に替わって、現在では、フラックスゲート磁力計、誘導磁力計、プロトン磁力計、オーバーハウザー磁力計、光ポンピング磁力計等があり、自動ディジタル計測ができるようになっている。ルーチン的な地磁気連続観測には主としてフラックスゲート磁力計とプロトン磁力計が用いられている。

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図3 吊り磁石変化計

フラックスゲート磁力計

 フラックスゲート磁力計は、地磁気ベクトルの3成分を高感度で測れるように設計されている。高透磁率の箔を細長い箔の周囲をソレノイドコイルで包んだセンサーを3本相互に直交させて組み合わせることにより、地磁気の3成分を測定する。最近は、高透磁率の箔を円形にして感度を上げる方式(リンゴコア)が多く利用されている。100Hz程度までサンプリングレートを高めることができる。(図4

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図4 柿岡地磁気観測所で使用されているフラックスゲート磁力計

プロトン磁力計

 プロトン磁力計は地磁気の強さ(全磁力)を測定するのに用いられる。水またはケロシンの入った容器に巻かれたコイルに電流を流し、地球磁場と垂直な方向に強い磁場を与えて液体中のプロトン(水素イオン)の磁気モーメントをそろえた後、急激に磁場を消失させると、プロトンの磁気モーメントが電流を切った後に残った地球磁場の方向に向こうとしてラーモア歳差運動を起こす。この歳差運動の周波数を測定することにより、全磁力値を導出する。電流ON・OFFの時間感覚により、10秒程度ぐらいまでサンプリングを早めることができるが、最近ではオーバーハウザー効果を利用することでプロトンの磁気モーメントを効率よくそろえる方式を採用して10Hz程度まで早めることもできるようになってきている。(図5

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図5 火山等野外で使用されるプロトン磁力計

 

絶対値測定

地磁気の測定では、電波の測定のように周期によって測定するセンサーの周波数特性を変えるというようなことはない。地磁気連続観測はDC(直流分)の変動を追跡しており、連続測定の値がそのまま長周期現象の解析に用いられる。ところで、数年以上もの長期の現象を調査するには、連続測定のオフセットが長期間安定しているとはいえない。そのため間欠的に絶対値測定を行ってオフセットの変動を補正する必要がある。絶対値測定は、現在のところ自動的に実施できる測定器がなく人手を介して行われる。世界で数十〜百程度ある基準の観測所では週に1回程度実施されている。

 絶対値測定用の測定器は連続測定器よりも長い歴史を持つ。地磁気の方向(偏角・伏角)と強さ(水平分力・全磁力)を測定して地磁気のベクトルを決定するやり方が原点であり、基本的には今も同じである。

 地磁気の方向測定には、地磁気の方向に対する指向性を持ったセンサーが必要であり、当初は磁針がセンサーとして用いられた。19世紀中頃、磁場中で導線を巻いたコイルを回転させると誘導電圧が生ずる原理を用いて、回転コイルの鉛直面内で向きを変えて誘導電圧が生じなくなる方向を探ることにより伏角を測定する測定器が開発された。この手法を応用して、20世紀中頃以降、日本独自の工夫により、回転コイルと非磁性経緯儀との組み合わせで偏角・伏角を同時に測定できる測定器が実用化された。この時期の日本において、人類の磁場絶対値測定器開発の歴史上特筆すべき発展をしたと言える。(図6-a図6-b

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図6-a 国土地理院で開発されたGSI型磁気儀(写真は鹿野山観測所パンフレットより転載)

 

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図6-b 柿岡地磁気観測所で使用されているDI72角度測定器

 

 一方、地磁気の強さの方は、20世紀中頃まで、磁針の磁場中での振る舞いを利用して地磁気の水平分力を測定する方式がとられてきた。20世紀中頃にプロトン磁力計が実用化されたことは地磁気の強さ(全磁力)の測定にとっては画期的な意義を持つ。プロトン磁力計の登場により、地磁気の強さの測定精度向上と維持は飛躍的に増大した。

 最近の絶対値測定は、センサーとしてフラックスゲート磁力計を用いた非磁性経緯儀による方向測定とプロトン磁力計を用いた全磁力測定をセットで行うやり方が主流である。(図7

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図7 最近国際的に用いられているDI-Flux

 

人工衛星による地磁気の観測

  (図面準備中)

 

 

地磁気指数

  (図面準備中)

 

地磁気と人間社会

 今のように衛星通信が使えないで短波通信を活用していた時代には、磁気嵐が発生した際に電離層状態が変化するために起こる電波障害は通信手段にトラブルをもたらす厄介なものとされ、そのための電波警報が郵政省通信総合研究所(当時電波研究所)から出されるようになった。しかし、大きな磁気嵐によるトラブルはその後も形を変えて人間生活に現れるようになってきている。1989年3月におきた大磁気嵐の際に極地方できわめて大きな地磁気変化が発生し、その結果地上に生じた誘導電流のせいで、カナダ・ケベック州において長時間停電するという事件があった。また、高度情報化社会になり、宇宙空間に多くの人工衛星を打ち上げて様々に利用されている昨今、宇宙空間での電磁気環境の重要性がこれまで以上に増している。その他にも、気候変動と地磁気・太陽活動との関わり等今後問題となる事項はいくつもある。

 電離層電流や磁気圏環電流等と関わりを持つ地磁気は、最近話題の宇宙天気の概況を端的に示すのに有効な物理量である。例えば、グローバルな電離層電流の模式図は、これまで見なれた天気図とよく似ており、宇宙天気における天気図のような役割を果たしてゆくかも知れない。

 一方、地上で観測される地磁気変化の中には、地震予知・火山噴火予知に役立つ情報も含まれている。最も基本的なデータ処理法は、観測されたデータから、超高層起源の寄与分を精度良く分離して、地震や火山噴火に先行する変化を捉える試みであり、特に火山活動に関しては実用レベルに達してきている。また、超高層起源の地磁気変化を活用して地下の状態,特に地下の電気伝導度異常等を推定して、その時間変化を監視するという手法も考案されている。この手法により、関東大地震に先行する数年間において地磁気変換関数が優位な変化を示したという報告もある。(図面準備中)

 人間の五感でとらえられない地磁気だが、このように様々な形で人間生活と関わりを持っている。最近では、磁気嵐等地磁気変化と人間の病理や生物学的問題との関わりについての研究も進められている。今後、地磁気は新しい地球環境として人間社会にクローズアップされてゆく可能性がある。