太陽と太陽風

 太陽から何らかの物質が吹き出して地球磁場に影響を与えているらしいことは,地磁気擾乱が地球から見た太陽の自転周期である約27日の周期で,繰り返して発生することなどから,推定されていた.そのような流れが実際に存在することを観測的に証明したのは,ドイツの天文学者ビアマンであった.彼は1950年代に彗星のイオンテイルの観測結果を解析し,彗星のイオンテイルの傾きを説明するため,太陽から秒速数百kmの風(太陽風)が吹いてなければならないことを証明した.

 この発見をうけて,当時シカゴ大学の若い天体物理学者であったパーカーは,太陽風は高速で膨張している太陽コロナに他ならないことを理論的に証明した。コロナのガスは100万度以上の高温であるため,真空に近い宇宙空間に向かって流れ出そうとするが,太陽の強い重力による内向きの力のため,太陽に近いところでは膨張が押さえられる傾向にある。ところが太陽からの距離が増すに従って,重力はどんどん弱くなるが,電子や陽子の温度はそれほど下がらないため,太陽からある距離まで離れた場所から急速に膨張を始め,太陽の重力に打ち勝って超音速まで加速されて,惑星間空間に太陽風となって流れ出す。この様子はロケットのノズルのような,超音速流を作り出すノズル(ラバル・ノズル)の働きと似ている.

 人工天体による太陽風の直接観測は,1962年に打ち上げられた金星探査機マリナー2号によって行われた.その結果,地球軌道(1 天文単位)のあたりにおける太陽風の速度は,大体において300 km/sec から500 km/sec の間にあり,密度は1ccあたりの陽子の数で10個程度,温度は約10万度であるが,状況によって大きく変化し,時には700 km/secを越す高速の太陽風が観測されることがある.高速の太陽風は低温・低密度のコロナ・ホールに起源を持つが,このことはパーカーによる太陽風モデルが与える,高温のコロナほど太陽風速度が大きくなる,という予測が当てはまらないことを示しており,プラズマ波動による加速などを考慮する必要がある.


 太陽風は太陽現象と,磁気嵐などの地球磁気圏現象を結び付けるものとして重要であり,前述の27日周期の回帰性磁気嵐は,コロナ・ホール起源の高速太陽風の流れ,さらにその重要性増すものとして,太陽風がコロナの磁場を宇宙空間に向かって引き出していることが挙げられる.地球軌道付近における磁場の強さは大体10 nT(ナノテスラ)であるが,他の太陽風の観測パラメータと同様に,大きく変化する.この磁場は地球磁気圏を構成する地球磁場と相互作用を起こし,特に太陽風磁場が南向きとなり,地磁気の方向と逆になったとき,太陽風の磁場(惑星間空間磁場,とも呼ばれる)と磁気圏の磁場とのつなぎ変え(磁場の再結合)が発生し,磁気嵐が発達することが知られている.


 太陽風は木星や海王星を越えて,惑星系のはるか先まで拡がっており,星間空間ガスと衝突して,「太陽圏」と呼ばれる半径が約100天文単位巨大なプラズマの「泡」を形成する.

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